山口氏は創価学会婦人部の強力な支持を集めている。演説会場では「なっちゃーん」という声援が飛ぶ。同婦人部は「平和憲法を守れ」という立場で、山口氏の後ろ盾となっている。

 安倍首相が12年に政権に返り咲いてすぐに打ち出したのは憲法改正の手続きを定めた96条の改正だった。衆参両院の3分の2以上の賛成を「過半数」に引き下げるというものだ。

 しかし、「裏口入学だ」という批判を浴びると撤回。こんどは自衛隊を憲法9条に明記する案を打ち出した。自民党はこの自衛隊明記に緊急事態条項の新設などを加えた4項目の改憲案をまとめている。そして19年夏の参院選。自民党が議席を減らして、参院での「改憲勢力」は3分の2を割り込んだ。憲法改正の機運は急速にしぼんだ。

 憲法改正は容易ではないという政治状況を安倍首相が知らないはずはない。それでも9条改正を掲げ続けたのはなぜか。「できないと知りつつ、お友達の保守派にアピールするために言い続けた。『やってる感』の演出だ」。憲法論議に詳しい自民党ベテラン議員の解説が説得力を持つ。安倍首相の後継に有力視される菅義偉官房長官は憲法改正に安倍氏のような熱意はない。安倍改憲は政治の遠景に退いていく。

AERA 2020年9月14日号