国会前に集まって、安倍政権と安倍首相の念願の憲法改正に反対を訴える人たち/2018年11月3日、東京都千代田区永田町で (c)朝日新聞社
国会前に集まって、安倍政権と安倍首相の念願の憲法改正に反対を訴える人たち/2018年11月3日、東京都千代田区永田町で (c)朝日新聞社
星浩(ほし・ひろし、65)/政治ジャーナリスト。朝日新聞政治部、ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。2016年に同社退社後、TBSの「NEWS23」のキャスターに就任 (c)朝日新聞社
星浩(ほし・ひろし、65)/政治ジャーナリスト。朝日新聞政治部、ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。2016年に同社退社後、TBSの「NEWS23」のキャスターに就任 (c)朝日新聞社

 7年8カ月の最長政権が当初目指したものは何だったのか。終焉を迎える今、何が実現できたのか。AERA 2020年9月14日号で、政治ジャーナリストの星浩さんが総括した。

【写真】政治ジャーナリストの星浩さん

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「志半ばで職を去ることは断腸の思いだ」。安倍首相は退陣表明の記者会見で、憲法改正ができなかったことを悔しがった。しかし、永田町の動きを冷静に見てきた政治家や官僚、記者の多くは、第2次安倍政権で憲法改正ができるとは思っていなかった。私もその一人だ。

 安倍首相の改憲には2人の政治家が立ちはだかった。まず、中山太郎元外相。2009年に引退するまで、自民党を代表して衆院憲法調査会(現・憲法審査会)で与野党の憲法論議のとりまとめ役を務めた。

 憲法改正は衆参両院の3分の2以上の賛成で国民投票の発議が決まり、国民投票で過半数の賛成を得て実現する。国会の意思を一本化するために与野党は円満な議論を進め、できるだけ多くの賛同を得るべきだ──というのが中山氏の考えだった。「コンセンサス方式」と呼んでいいだろう。自民党の船田元、中谷元両氏、立憲民主党の枝野幸男、辻元清美両氏らは中山氏の下で憲法論議を重ねた「中山門下生」である。将来的には「環境権」を憲法に書き加えるなどの改正で与野党が歩み寄ることを想定していたという。

■選挙圧勝でも進まず

 これに対し、12年に政権に復帰した安倍首相は「憲法改正のための多数派」をめざした。13年、16年の参院選、14年、17年の衆院選で勝利を重ね、自民、公明の与党に維新などを加えた「改憲勢力」は衆参両院で3分の2を超える勢力にふくれあがった。それでも憲法改正は進まなかった。「数で押し切るのではなくコンセンサスで」という中山氏の精神が与野党に浸透し、安倍首相といえども強引な国会運営はできなかったのだ。

 もう一人は公明党の山口那津男代表だ。弁護士でもある山口氏は憲法に精通している。安倍首相が改憲発言をするたびに「首相に憲法改正の権限はない。発議権があるのは国会だ」と反論。国会で与野党が落ち着いた議論を進めて合意を探っていくべきだという立場を明確にした。

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