AERA 2020年6月29日号より
AERA 2020年6月29日号より
AERA 2020年6月29日号より
AERA 2020年6月29日号より

 東京五輪の運営について大会組織委員会は、「安全・安心」の環境確保を最優先課題に掲げた。「安全・安心」とは具体的に何を意味するのか。AERA 2020年6月29日号は「五輪の条件」を特集。専門家が挙げた開催条件とは。

【グラフ】新型コロナウイルスの累計感染者数とアメリカ・ブラジルの新規感染者数

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 史上初の延期となった東京オリンピック・パラリンピック。世界最大のスポーツイベントを日本ならではの最高のおもてなしで迎える──。そんな計画は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で一変した。

 大会組織委員会の森喜朗会長は10日に「新型コロナウイルスで世界では大きな被害、犠牲者がいる。従来の華美なお祭り騒ぎが多くの方の共感を得られるのか考えないといけない」と表明。現実には大会のあり方どころか、開催の可否さえ危ぶまれる事態だ。一体、どのような条件が整えば開催は可能なのか。

 前回のリオデジャネイロ五輪には、選手だけでも207の国と地域から1万1238人が参加。ロンドン五輪は204の国と地域から1万568人だった。集まるのは選手だけではない。ロンドン五輪を研究する立命館大学産業社会学部の金子史弥准教授によると、審判や技術役員などのテクニカルスタッフが約3千人、各国・地域のオリンピック委員会の役員(監督・コーチなど)が約6千人で、選手と関係者を合わせ約2万人。さらに運営スタッフやボランティアなど約8万人が加わり、約10万人となる。

 そして、観客。東京大会の従来の計画では、五輪で780万人、パラリンピックで230万人の観客を見込んでいた。リオ五輪時の状況からわかるように、世界中の人々が日本を訪れることになる。ちょっとした人混みにも心理的抵抗を感じる日本の現状とは、あまりにもかけ離れた数字だ。

 10日に大会組織委員会が発表した新たな基本原則では「選手、観客、関係者、ボランティア、大会スタッフにとって安全・安心な環境を提供すること」を最優先課題に掲げている。

「安全・安心」の実現には具体的に何が必要なのか。関西福祉大学教授の勝田吉彰さん(渡航医学)はワクチンの実用化が間に合い、そのワクチンを選手や競技関係者全員に接種できることを条件に挙げる。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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