医療機関の窮状に輪をかけているのが院内感染のリスクだ。他の患者や医療従事者への感染防止に万全を期しても、新型肺炎患者の受け入れが外部に知れわたると来院患者が減り、病院経営へのダメージが大きいと考える施設も少なくない。そうなると、受け入れを拒否する病院が増える懸念もぬぐえない。そのとき、深刻になるのは重症患者の措置だ。和田教授はこう警鐘を鳴らす。

「ここでなるべく感染者のピークの波を小さくしないと、重症者が増えて人工呼吸器を使う患者の優先順位をめぐって議論しなければならないという倫理的な修羅場も想定されます」

 全国の医療機関が持つ人工呼吸器は約9千台しかなく、しかもこのうち4割が使用中だ。残る5千台余をめぐって、人工呼吸器の取り合いになりかねない状況も現実味を帯びつつある。

 最優先は「うつさない」ことだが、「うつらない」ための対策を怠っていいということではない。

 感染拡大を防ぐ手段として最も有効なのは手洗いの励行だ。職場の入り口付近にもアルコール消毒液を設置するようになった企業も多いだろう。だが、手洗いを徹底できているかどうか、それぞれがもう一度、自己点検してほしい。たとえば、出勤時や外回りから帰ってきたとき、あるいは来訪者と接触したその都度、手洗いを繰り返さなければ感染リスクを抑えることはできない。

 マスク不足は今や米騒動や石油危機を思わせる狂騒ぶりだが、和田教授は「電車の中でマスクは着けていません」という。理由は、通勤電車でおしゃべりをしている人はほとんどおらず、頻繁に咳をしている人も少ないからだという。

「目の前で咳をする人がいれば、そのときにマスクを着ければいいし、咳をしている人にマスクを渡してあげればいい。1、2メートル以上離れるか、いったん下車してもいいでしょう。むしろ、マスクをしているから安心と考える意識のほうが危ない。下車した後、私は必ず手を洗います」

 岡山大学大学院の津田敏秀教授(環境疫学)も、マスクについて「非感染者にとっては、顔を触らないことには有効かもしれないが、しないよりもましという程度。マスクの不足が顕在化している中では、むしろ感染者や発症者にマスクを回すことを重視するべきだ」と話す。

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