※写真はイメージ(gettyimages)
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 家族にがんが見つかったとき、どうしたらいいのだろうか。AERA2020年2月10日号では、夫婦の事例をもとに考えた。

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 まさか、妻の頭をバリカンで剃る日が来るとは思わなかった──。静岡県浜松市に住む医師の瀧澤義徳さん(45)はそう話す。抗がん剤の副作用で髪がまだらに抜け、「気持ちが悪いから」とバリカンを手渡された時の切なさは忘れられない。

 元看護師の妻、知美さん(41)に、子宮頸がんが見つかったのは、2017年4月。当時7歳の長男、慶くんと3歳の長女、百果(ものか)ちゃんを連れ、義徳さんの留学先の米国から帰国したばかりだった。がんは初期だったが、鼻やのどなど頭頸部にできるがんの専門医でもある義徳さんは身構えた。知美さんのがんは「腺がん」と「大細胞神経内分泌がん」の混合型。後者は転移しやすく、症例も少ない、厄介ながんだったからだ。

 すぐに子宮の摘出手術と、予防的な抗がん剤治療をすることが決まった。気がかりは子どもたちのこと。手術時以外に、4カ月間は月に1度、抗がん剤治療のために2泊3日の入院が必要だ。帰宅後も1週間から10日程度は、吐き気やしびれなどで育児・家事が難しい。だが、知美さんの両親はすでに他界、義徳さんの両親も遠方で頼れない。

 知美さんはベビーシッターを探し始めた。と同時に、看護師時代の友人やママ友、近所の人にも事情を話すことにした。

「じいじ、ばあばがいなくてもなんとかなっています。息子の運動会のお弁当はお友達のママが作ってくれて、夏休みもあちこちの家に預かってもらって。包み隠さず話したことが良かったと思います」(知美さん)

 義徳さんも生活を変えた。平日は朝6時に起きて洗濯機を回しながら朝食を準備。息子を送り出したら娘を車に乗せ、幼稚園経由で勤務先の病院へ。担当する手術や会議などを調整し、午後5時すぎには娘を迎えに行く。週末も妻の体調が悪ければ、子どもたちを外に連れ出す。

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