羽生が指摘するのは、この事前回転の技術。羽生がそのまま導入することはないが、回転を強くかける技術は4回転アクセルへの応用が可能だと判断した様子だった。

 女子選手の次なる課題は、このジャンプを維持できるかどうかだ。成功者のほとんどが、まだ13~16歳。とかく小柄で、体重が30キロ台だ。身長が伸び、思春期で体形が変わる頃に、変化を乗り越えられるか。そのためには、身体の細さに頼った跳び方ではなく、スピードや筋力をある程度使った跳び方に変化していく必要があるだろう。

 ザギトワは、五輪後に身長が10センチ近く伸びた。

「一時期は、手足がどこにあるのか分からずバラバラに感じてジャンプに苦労しました」

 ザギトワほどの身体能力でも、身長が160センチを超えた今や、大技は難しい。

 それらを加味しても脅威なのはトルソワだ。彼女は言う。

「身長はだいぶ伸びましたが、身長と共にジャンプ力も伸びているのでスランプはありません」

 22年北京五輪では、女子も4回転ジャンプが必須になることは間違いない。この戦いに、もっとも食い込んでいる日本選手は、紀平。今夏には、海外合宿で4回転サルコウと4回転トウループを成功させている。

「今季の終わりには練習で4回転をコンスタントに跳べている状況にして、来季には毎試合しっかり挑戦できるくらいにして、北京五輪のシーズンでは完全に身につけて臨みたいです」

 12月のGPファイナルでは紀平、トルソワ、シェルバコワらが直接対決することになるだろう。(ライター・野口美恵)

AERA 2019年11月25日号より抜粋