「大石の金銭感覚がわかっていないところは、自分と似ているかな(笑)。でも、演じる時はこの役に限らず、自分のイメージだけで作らないようにしています。僕はキャラクター作りより作品全体を理解することが重要だと思っているんです」

 ところで、今作で大石は2度目、浅野も1度演じている堤さん。今回初めて四十七士が眠る泉岳寺へ墓参りに行ったそうだ。

「この脚本で泉岳寺に行ったら怒られるかなと思ったんですけどね(笑)」

 いや、大石もきっと草葉の陰で笑っているに違いない。

◎「決算! 忠臣蔵」
赤穂浪士が主君の仇討ちを果たすまでにかかった「お金」に関する悲喜こもごもを描く。11月22日から全国公開

■もう1本おすすめDVD 「殿、利息でござる!」

 中村義洋監督の前々作「殿、利息でござる!」は、「庶民の忠臣蔵」(原作者の歴史学者・磯田道史さん)とでも言うべき物語。江戸時代中期に自分たちの宿場町を救うため、破産覚悟で私財をなげうった日本人の無私の精神を描く。

 重い年貢のために夜逃げが相次ぐ仙台藩の宿場町・吉岡宿。町の行く末を心配する穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は、知恵者の茶師・菅原屋篤平治(瑛太)に町を救う秘策を尋ねる。それは藩に大金を貸し付け、利息を巻き上げるという大胆なアイデア。計画がバレたら打ち首確実だが、十三郎や篤平治を中心に、足掛け8年をかけて、千両(3億円)を水面下で集める。

 9人の男たちによる一大プロジェクト。これが実話であることに驚くが、何より心引かれるのが、大願成就しても9人がいい気になったり勘違いしたりしないように、自らを律する「つつしみの掟」を作って代々守り続けたという事実だ(そのためこの話が世に広まらなかったが)。

 なぜ自分の得にならないことを彼らはできたのか。生きる価値とはどこにあるのか。拝金主義が蔓延する現代で、「幸せとは何か」を自然と考えずにはいられない。

「普通ミュージカルシーンは流れるような長いカットで見せたりしますが、この映画では細かくつないでいる。逆にドラマ部分は手ブレやズームを多用したドキュメンタリー風。撮り方を変えているのが刺激的です」

◎「殿、利息でござる!」
発売・販売元:松竹
価格3300円+税/DVD発売中
C 2016「殿、利息でござる!」製作委員会中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年11月18日号