僕は日記のようにその日の気温と「すごくつらい/ややつらい/普通」という気分の評価をエクセルで記録していまして。なんとしてでも、気分が落ち込む時の共通項を見つけたかったからです。気分が落ち込むのが3月、5月、11月で、どうやら原因は「はげしい気温差」だと判明。このからくりを発見したことで、一気に目の前のもやが晴れたような気分でした。

 気温差が10度もあるような時は、いまだに気持ちが落ちることがあります。この前の台風の時もそうでした。うつは、寛解という言い方をしますよね? 症状が落ち着いて安定している状態です。僕の場合も、完治ではないのかもしれません。忙しさも、落ち込みの引き金になります。今は仕事を絞るなど自分なりに工夫をしています。

 ただ、うつトンネルのど真ん中と明らかに違うのは、落ち込みの原因が分かっていることと、「出口」が見えていること。気温が安定してきたら治るぞ! 大事な判断は今ここですべきじゃない、と注意報みたいな感じですね。自分にとってうつ状態を招く引き金や法則を知っておくことは有効だと思います。

 うつを抜けるポイントは、「自分は誰かから必要とされている」という気持ちです。知り合いはを飼い始めて、すごく心の支えになっていると。自分がいなければ死んじゃうって。僕も今、京都精華大学のマンガ学科で教えていて、若い学生たちに頼られるというのは、すごくメンタルによかったですね。

『うつヌケ』には、ミュージシャンや学者といった16組17人のエピソードも載せました。色々なパターンがあると知ることができてよかった、という声の一方で、マイナスの反響もありました。この人たちには、社会的地位や家族の支えがあるじゃん、と。「自分が必要とされる場なんてあるものか」という人がたくさんいるんですね。

 最近、僕は二つの提案をしています。一つは、日常で「小さく褒められたこと」を心の中で反芻すること。たいしたことじゃなくても構わない。例えば僕は「漫画家さんなのに、事務処理能力高いですね」と大学で言われました。サラリーマン経験があればなんてことないのですが、「ああ、僕は能力が高い、高い」と日に何度も唱えちゃう。

 もう一つは、「落ち込んだらおいしいものを食べに行くこと」。効果としては、「ああ、おいしかった」と満足するのが半分。もう半分は、お店を出る会計の時、店員さんに「おいしかったです!」と伝えることで、「ありがとう」が満面の笑みで返ってくることです。この「いいことしたぞ感」は大事です。照れくさければ、仏頂面でもいい。むしろ、むすっとした人に感謝の言葉を伝えられる方が、ツンデレ効果があるかもしれません。

(聞き手・古川雅子)

AERA 2019年10月14日号