トランチの場所には、曜日ごとに日替わりでフードトラックがやってくる(撮影/大野洋介)
トランチの場所には、曜日ごとに日替わりでフードトラックがやってくる(撮影/大野洋介)

 料理の移動販売車「フードトラック」をランチタイムに街中で見かけることが増えた。フードトラックはケータリングカーやキッチンカーとも呼ばれる。ここ数年、本格的な料理を提供するフードトラックがオフィス街で大人気だ。その人気にはAIも一役買っているという。

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 大きな鍋のふたをあけると、たっぷりの湯気といい匂いが辺り一面にたちこめる。おなかが空き始めた昼前だっただけに、胃袋をぎゅっとつかまれた。

 ランチどきに「30分行列しても食べたい」と評判の「TOKYO PAELLA(トーキョー パエリア)」。列をなすのはお店の入り口、ではない。車を飲食店のように改装したフードトラックだ。

 取材した日のパエリアは「鶏のヴァレンシア」。容器を開くとボリュームたっぷり。中身がこちらに迫ってきそうな勢いだ。鶏や豆、野菜のうま味を吸ったパエリアは奥行きある重層的な味わいで、低温調理したタパスの若鶏はしっとり。シャキシャキした野菜の奥からはクルミや松の実、ひまわりの種などが顔をのぞかせる。こんな本格的な料理をフードトラックで味わえるとは──。

 それもそのはず。

「ヴァレンシアでは本当はウサギやカタツムリを入れるのですが、レバーを入れてこくを出しています」

 そう語るのは、シェフの吉沢章一さん(48)。国内外の厨房でキャリアを積み、34歳のときには本場スペインで料理長に。国内のパエリアコンテストで3位入賞したこともある腕の持ち主だ。

 フードトラックを開業したのは2007年。ほかの多くの事業者同様、資金面の理由からだった。自分の店を持ちたい思いはあったものの固定店舗を構えるには1千万~2千万円が必要。売り上げは立地にも左右される。だが、フードトラックであれば200万~300万円で開業できる。場所にも縛られない。

「でも、最初の3年は全然売れなかったですね……。1日10食しか出なくて、残ったのを友だちや親戚に配ったり。2時間近くかかる現場まで行ってやっと20食とか。レストランの厨房と勝手が違い、オペレーションを安定させるのに3、4年はかかりました」

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