自説を曲げず、最大野党労働党のコービン党首を討論でやりこめようとする強気の姿勢はこの頃から培われていたのだろう。一方で、人々の間に分け入ったり、根回しをしたりするのは苦手だと言われる。裏目に出たのが17年6月の前倒し総選挙だった。優位との事前予測が外れて保守党は単独過半数割れとなり、以後、議会との対応に苦しむことになる。

 筆者はその年9月、日英2国間の非公式会議のメンバーとしてメイ氏に首相官邸で面会したことがある。直前に訪日したばかりだったが、訪問した20人に個別の握手もせず、簡単なあいさつで席を立った。保守系の政治家らしからぬ素っ気ない対応に驚いた記憶がある。

 英タイムズ紙は、サッチャー氏とメイ氏について「2人とも党長老の支持を受けていたが、広く好かれていたわけではない」と分析。ともに孤独で、最も影響を受けていたのは夫だったと指摘する。

 メイ氏の後継には、ジョンソン前外相、ゴーブ環境相、ハント外相ら11人(5月29日現在)が名乗りを上げている。世論調査で支持トップのジョンソン氏は、欧州統合の推進に懐疑的だったサッチャー氏の流れをくむ強硬離脱派。10月末の離脱期限に向けて、「合意なき離脱」も辞さない姿勢を示す。これに対し、穏健離脱派のハント氏は「合意なき離脱」は自殺行為と反論。EU側が拒んでいる再交渉を目指す。保守党への批判が高まるなか、総選挙になれば、政権交代の可能性もある。

 インディペンデント紙は今後の政治のさらなる混乱を見通して、こう皮肉った。

「メイ氏の利益になることが唯一あるとすれば、最悪の首相というタイトルは極めて近い将来、次の首相に譲られることになるということだ」

(朝日新聞ヨーロッパ総局長・石合力)

AERA 2019年6月10日号