

映画監督の是枝裕和と西川美和が中心となり立ち上げた制作者集団「分福」。そこで2人の監督助手を務めてきた広瀬奈々子が、オリジナル映画「夜明け」を引っさげデビューする。是枝と広瀬が映画監督について語り合った。
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広瀬:監督助手だった時に是枝さんから一番言われたことは、「書け」ということでした。
是枝:映画を作るにはとにかく脚本を書くしかない。今も若い人の顔を見れば「書け書け」と言っていますが、なかなか書かないね。でも、20代、せいぜい30代前半までに鍛えておかないと、そこから先は成長しない気がするんだ。20代で考えたことはタネになるから、そこは大事だと思っています。
広瀬:「自分が監督だったらどうする?」ということもよく言われましたね。それを考えるのは楽しかったです。自分の意見が採用されると、監督のためではなく「作品のために自分が貢献できた」と思える。非常にやりがいを感じていました。あのシーンは私のシーンだと思っているものもありますし。
是枝:どこどこ?
広瀬:それは言いません。作品は監督のものなので(笑)。
是枝:思い出すからちょっと言ってごらんよ。
広瀬:(恐縮しながら)今でも大切に思っているのが「そして父になる」。良多(福山雅治)が息子の慶多を実父の雄大(リリー・フランキー)のところに置いて別れるシーンです。「車の後ろの窓(リアガラス)から撮ったらどうか」って言ったんですよ。
是枝:僕はあの時、残される方、見送る側にカメラを残そうと思っていたんだ。ところが、奈々子は逆がいいんじゃないかって。最初は「ん?」と思ったんだけど、そうしてみたらすごくいい絵だった。予告でも使うくらいの(笑)。
広瀬:あれは密かに私のカット!と思ってました(笑)。
是枝:そういうふうに作品を自分のものだと思ってくれる人がいるのはとてもいいね。「海街diary」の時も、僕は奈々子を相当頼りにしていたよ。食堂周りの撮り方も奈々子頼りだった気がする。
広瀬:その頃には監督助手としての役割にも慣れてきましたから、是枝さんに10個褒めて1個悪いことを言おうとか。そういう術を覚えていました(笑)。