ふわっとした雰囲気をまとう村田沙耶香さん。真摯に言葉を選んで話してくれた(撮影/篠塚ようこ)
ふわっとした雰囲気をまとう村田沙耶香さん。真摯に言葉を選んで話してくれた(撮影/篠塚ようこ)

 ふわっとしたオーラを放ちながら、こちらの目を見て言葉を選び、丁寧に話す。

「人見知りなんです」と、はにかんだ村田沙耶香さんは、独特の雰囲気をまとった愛らしい人だった。

『コンビニ人間』や『地球星人』など、既成概念を壊し、人間の内面をえぐり出す作風で、多くの本好きを虜にしている村田さん。透明感ある本人を前にすると、一作一作、衝撃的な“村田ワールド”を繰り出す作家であることを、つい忘れてしまいそうだ。

「村田さんって、いったいどんなことを考えている人なんだろう?」

 その答えは、最新刊『となりの脳世界』『私が食べた本』(ともに朝日新聞出版)のページをめくればわかる。

「どちらも私がデビューして15年間で書き綴ってきたものを全部まとめたものです。本当は1冊にしたかったんですけど、多すぎたので、編集の方と相談して2冊に分けました」

 10月に刊行した『となりの脳世界』はエッセー集、『私が食べた本』は12月に刊行したばかりの書評集だ。

 まず、『となりの脳世界』について村田さんに聞くと、

「あの、ホントは全部じゃないです。エッセーで読み返して恥ずかしいものは、ちょっとだけ省きました(笑い)」

 なんとも律義な村田さんだが、実はデビュー当時は「エッセーが苦手だった」という。

「主人公がいないので、何を書けばいいのかわからなかったんです。でも『自分が丸裸になればいいんだ』と悟ってからは、楽しくなって、エッセーを書くのが好きになりました。これからも定期的に書きたい」

 エレベーターに乗り合わせた人が“開閉ボタン”を押して乗り降りを促す厚意にまつわる葛藤を綴った「親切エレベーター」、自分が乗っている乗り物と並行して“走っている何か”を空想して楽しむことを論じる「『走らせている人』たち」など、思わずぷっと噴き出してしまうコミカルなエピソードがいっぱいだ。

 また、芥川賞受賞作『コンビニ人間』のもとになったという、コンビニに宛てたラブレター「コンビニエンスストア様」も収録。

 行間から空想好きな少女時代の“沙耶香ちゃん”や、大人になっても考えすぎなところが抜けない“沙耶香さん”と、いろんな表情を持つ「作家・村田沙耶香」がにじみ出ている。

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