一方、書評集『私が食べた本』は、他の作家が手掛けた物語を村田さんが読むとこうなるのか!と、思わず膝を打つ“作品集”といっていいかもしれない。

「私がつけました」というタイトルどおり、言葉ひとつひとつをなめ回し、咀嚼し、のみ込むような、村田流の“本の味わい方”を存分に披露している。

「もともと本を読むのは遅いほうなんですが、書評を書くときは、もっとゆっくり。作家の意図を見落としていないか、前へ戻って読み直して、また読んで……というスタイルになっちゃう。だから、一冊読み切るのにすごく時間がかかるんです」

 収められた38作品は村田さん自身、「大好きな本ばかり」という。

「一番最近に書いた、桐野夏生さんの『抱く女』は強く印象に残っています。主人公の直子が抱える女性としての“痛み”や“違和感”が生々しくて。また藤野可織さんの短編集『ファイナルガール』も好きです。奇妙な話ばかりに思うかもしれませんが、あぁ、こんなことあったよねと、心のずっと深いところで納得する感覚が素敵」

 自分の好きな本の話をしだすと、とたんに目がキラキラする村田さん。

 文学に対してどこまでも真摯な姿勢で挑み、いつまでもむき出しの好奇心を絶やさないからこそ、“村田ワールド”は読者を魅了するのだと改めて思う。

 ふだんより時間がとれそうな年の初めにエッセー集&書評集の2部作で、「素顔の村田沙耶香」に出会ってみてはどうだろう。奇才がぐっと身近な存在になること、間違いない。(ライター・吉岡秀子)