遠藤:乙武さんって、同じ両足切断の方の中でも義足で歩くのが特に難しいんです。まず、ひざがない。歩くうえでひざはとても重要で、ひざ上切断とひざ下切断では状況が全く違います。それから手がない。つえをついたりバランスをとったり、万一転んだときに手をついたりすることができないんです。そして、歩いた経験がない。事故で足をなくした方など、かつて二足で歩いていた人のほうが、体が歩き方を覚えていて義足に挑戦しやすいんです。

乙武:逆説的だけど、だからこそ僕が歩いていたら、「乙武にできるんだから」ってなるかなと。きれいごとに聞こえたらイヤだけど、僕は「誰かの役に立ちたい」と思って表舞台に出続けてきた人間です。でも、自分の不徳の致すところで、それができない状況になった。だからこのお話をいただいたとき、僕自身が歩けるようになることよりも、同じように歩くのを諦めている人に、歩く未来が見せられたらと思ったんです。

遠藤:世の中は二足歩行することを前提にデザインされています。ユニバーサルデザインが増えているけど、それはあくまで後付けなんです。だから、義足を使って歩けることは単なる移動手段の獲得以上の意義があると思っています。

乙武:ただ、ひとつ付け加えたいのは、足がない人にとって二足歩行だけが正解ではありません。車いすだって立派な選択肢。でも、この義足が完成すれば選択肢が格段に広がると思っています。そんなふうに、障害を乗り越える選択肢が増えれば、すばらしいですね。

(構成/編集部・川口穣)

※AERA 2018年12月24日号より抜粋