【作家】乙武洋匡(おとたけ・ひろただ、左)さん:先天性四肢切断での生活体験をつづった著作『五体不満足』(1998年、講談社)がベストセラーに。今年10月には車いすのホストを主人公にした小説『車輪の上』(講談社)を出版した/【ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチャー Xiborg社CEO】遠藤謙(えんどう・けん、右)さん:ロボット義足や競技用義足の開発を手がける。気鋭のエンジニアとして早くから注目され、世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーズ」などにも選出された(撮影/写真部・小原雄輝)
【作家】乙武洋匡(おとたけ・ひろただ、左)さん:先天性四肢切断での生活体験をつづった著作『五体不満足』(1998年、講談社)がベストセラーに。今年10月には車いすのホストを主人公にした小説『車輪の上』(講談社)を出版した/【ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチャー Xiborg社CEO】遠藤謙(えんどう・けん、右)さん:ロボット義足や競技用義足の開発を手がける。気鋭のエンジニアとして早くから注目され、世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーズ」などにも選出された(撮影/写真部・小原雄輝)
義足をはき仁王立ちする乙武さんの姿には、多くの反響が寄せられた。実は、靴をはいた義足はこの日が初体験だった(写真:本人提供)
義足をはき仁王立ちする乙武さんの姿には、多くの反響が寄せられた。実は、靴をはいた義足はこの日が初体験だった(写真:本人提供)
技術チームが開発を進める義足。デザインにも工夫が凝らされ、「あり得ない形状だが、不自然ではない立ち姿」(遠藤さん)を実現する(撮影/写真部・小原雄輝)
技術チームが開発を進める義足。デザインにも工夫が凝らされ、「あり得ない形状だが、不自然ではない立ち姿」(遠藤さん)を実現する(撮影/写真部・小原雄輝)

 歩いた経験がなくても、さっそうと歩く未来を見せたい。障害を乗り越える選択肢を増やそうと義足開発に挑む作家の乙武洋匡さんとソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙さんが語り合った。

【写真】義足をはき仁王立ちする乙武さん

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――乙武、再始動。

 今年11月、そんなキャプションとともに1枚の画像がインスタグラムに投稿された。陸上トラックで、義足をはいて仁王立ちする作家・乙武洋匡さんだ。「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(11月7~13日)のシンポジウムで紹介された映像には、乙武さんが義足をはき7.3メートルの距離を歩く様子と、そこに至るまでの挑戦が収められていた。ソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙さんらが開発を主導し、「OTOTAKE PROJECT」と名付けられたチームが目指すのは、両足の太ももから先がない乙武さんが「自然に歩く」未来だ。

遠藤:ロボット義足の開発に科学技術振興機構の支援が決まったとき、考えたのは乙武さんがスタスタ歩く姿でした。乙武さんがさっそうと歩く姿を見せられたら、それだけで大きなインパクトになります。

乙武:僕自身は、3歳のときから40年近く電動車いすで生活しています。だから、実は「歩けるようになりたい」という思いはあまりないんです。でも、かつて遠藤さんと対談したときに聞いた「悔しい」という言葉がずっと心に残っていました。

遠藤:乙武さんは小さいころ、義足に挑戦されていた。でも、電動車いすはもちろん、車いすに乗らなくてもお尻と大腿(だいたい)部で歩いたほうが速いし安全だから諦めたと聞いたんです。確かに、当時の義足の技術で乙武さんが歩くのは難しかったと思います。でも、それで諦めてしまったのは技術者として悔しい。今の技術で乙武さんが歩けるかどうか、チャレンジしたいと思っていました。

乙武:昨年の12 月に、「プロジェクトとして挑戦したい」と正式にご連絡をいただいたときも、遠藤さんの悔しいという言葉をまず思い出しました。

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