逆に、ビジネスで培ったスキルを家庭にもどんどん持ち込む。資産運用のコンサルティングなどを行うガイア社長の中桐啓貴さん(45)は、コンサル業で培った「聴く技術」を、そのまま娘3人と妻とのコミュニケーションに生かしているという。

「例えば、娘が『こんな習い事をしてみたい』と言ってきた時に『いいよ』『ダメ』で終わらせずに、『なぜそう思ったの?』と深掘りできるかどうか。この違い一つで、信頼関係は深まります」

 10歳になった長女には証券口座を用意し、「金融教育」も始める予定だという。

 中桐さんのように、ビジネス感覚を生かした独自の教育を我が子に行う実践は他にも。レンタルスペースの貸し借りのプラットフォームを運営するスペースマーケット社長の重松大輔さん(42)は、毎週末の「ステージの日」を楽しみにしている。3人の子どもたちがエンタメユニットと化して、歌と踊りを披露するのだ。ショーはチケット制で、観客となる両親は数百円程度のお金を渡す。

「人を楽しませて価値を創り、ビジネスが成立する。経済の仕組みの基本を、家庭の遊びの中でも伝えていきたい。メルカリを使ってオモチャの不用品を売る体験もいい勉強になる」

 事業経営に欠かせない「ビジョン策定」を、家庭でも習慣づけしているという経営者パパもいる。IoT通信事業で急成長を遂げるソラコム社長の玉川憲さん(42)は年に1回、妻と話し合って“玉川家の子育てビジョン”を更新している。

「18歳時点をゴールにしてどんな子に育ってほしいかという目標のすり合わせです。子ども3人それぞれの個性と長所、成長具合や強化ポイントを確認したうえで『これから先の1年で、どんな遊びを取り入れていくか』と具体的行動に落とし込んでいます」

 妻と子育ての方針をじっくり話す習慣が、夫婦関係を安定させ、「家庭内の心理的安全性を保つ」とも考えている。

 公私を混ぜることで相乗効果を狙う彼らは、「ビジネスの場に家庭の話はご法度」という感覚を持たず、子育ての日常を公開することに抵抗もない。むしろ積極的に出すほうが、社員にメリットも生まれ、人材戦略にもつながるとさえ考えている。

「子連れで海外出張」(玉川さん)や「社長自ら子連れ出勤」(重松さん)といった姿を見せると、子育て中の社員も堂々と働ける。リモートワークをリーダーが率先するから、自然と柔軟な働き方が浸透する。(ライター・宮本恵理子)

AERA 2018年10月29日号より抜粋