片山さつき地方創生・女性活躍担当相の発言も、この立場だ。寺脇氏が続ける。

「この改憲は、乱暴な言い方をすれば大日本帝国憲法下の『臣民』に戻すという考え方にもとれる。国民に主権はない。そうした人間を育てる狙いが道徳の教科書に散見されます」

 例えば、小学6年の複数の教科書に掲載されている「星野君の二塁打」という話がある。送りバントのサインを無視して二塁打を打ち、チームは勝利。しかし監督は「犠牲の精神の必要性」を説き、「監督の指示は絶対」として星野君に出場禁止の罰を与えるという内容だ。

「必ずしも教科書を使う必要はないが、現場に道徳の専門家はおらず、先生の余裕もない。教科書を使った授業が中心になっている」(寺脇氏)

 文部科学相には柴山昌彦氏が就任。就任会見で教育勅語について「道徳などに使うことができる分野は十分ある」と発言し、野党などから「戦前回帰」「憲法違反だ」と反発が出た。発言について柴山氏は「国として検討と言ってない」と釈明したが、寺脇氏は警戒感を隠さない。

「職員への訓示では廊下ですれ違う時にあいさつをすることを徹底した。下村博文元文科相の影響だという。下村氏は大臣時代、課長以下の人事にまで口を出し、恐怖政治を貫いた。教育基本法の改正や道徳の教科化など、日本会議が求める政策は下村大臣時代に具現化している。柴山氏が下村氏に強い影響を受けるとなると、柴山氏のもと、また教育への政治的介入が強まるかもしれない」

 その下村氏は今回の自民党役員人事で憲法改正推進本部長に就いた。永田町関係者が話す。

「長年、自民党の憲法議論を進めてきた船田元氏などをはずし、憲法には明るくないはずの下村氏を本部長に。党の憲法改正案を国会に提出するには総務会の全会一致が原則となることから総務会長には首相側近の加藤勝信氏を置き、異論を出させない体制を整えた。15年の安全保障関連法案の際は、当時の二階俊博総務会長が反対派を退席させ、全会一致をとりつけた」

 安倍首相、そして日本会議の悲願の憲法改正に万全の体制を整えたということか。そこに国民の姿は見えない。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年10月22日号より抜粋