5大商社の純利益の推移(AERA 2018年7月23日号より)
5大商社の純利益の推移(AERA 2018年7月23日号より)
図=AERA 2018年7月23日号より
図=AERA 2018年7月23日号より
図=AERA 2018年7月23日号より
図=AERA 2018年7月23日号より

 日本経済を牽引してきた総合商社。幾度となく訪れた「冬の時代」「商社不要論」を乗り越え、今「好決算の宴」に沸く。総合商社とは何か、そして将来は……。

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 総合商社に「好決算の宴(うたげ)」が訪れた。

 大手総合商社5社の2018年3月期決算で、三井物産を除く4社が連結純利益で過去最高をたたき出した。

 なかでも、三菱商事は総合商社で初めて5千億円の大台を突破。三井物産は最高益には届かなかったものの、連結純利益は37%増で過去2番目に高い利益水準となり、一時期、後塵を拝した伊藤忠商事を抜き返した。

 一方の伊藤忠は2期連続で最高益を更新し、悲願の4千億円の大台を突破。住友商事は連結純利益は81%増、丸紅も連結純利益が36%増で4期ぶりの最高益となった。

各社は好調の背景をこう説明する。

「市況系(市況の影響を受けやすい事業)と事業系(市況に左右されにくい事業)を最適な比率にすることに注力しつつ事業系の稼ぐ力を強化したことに加え、市況の回復も取り込めたことによる」(三菱商事)

「資源・エネルギーの強固な収益力に加え、鉄鋼製品や機械・インフラを中心に非資源分野も順調な伸びを示したこと」(三井物産)

「生活消費関連の収益基盤とグループ会社を含めた『稼ぐ・削る・防ぐ(か・け・ふ)』を徹底したこと」(伊藤忠)

 世界でも珍しい存在の総合商社。グローバル企業のイメージが強いが、日本特有の事業モデルを備え世界に例のない独自の業態として、日本経済を牽引してきた。

『総合商社』(祥伝社)などの著書がある専修大学経済学部の田中隆之教授(経済学)は、総合商社はトレード(商品取引)を軸に、事業運営(投資先の経営権を握る)と事業投資(投資先から配当収入を得る)の機能を兼ね備えていると指摘。業態として海外に類例がないという。

「もともと総合商社の収益の柱は、原料や商品を売買して口銭(こうせん)と呼ばれる手数料をとるトレードだった。しかし、メーカーが資金力をつけ自ら販売網を広げると商社の存在意義は薄れてきた。そのためトレードを軸に、ビジネスの川上から川下までの商流をとらえ、各段階で事業投資と事業運営を行い収益を手にするようになった」

 英国は19世紀に多国籍商社を輩出したことで知られるが、1980年代に「もの言う」機関投資家が現れたことで「事業内容を絞り込め」と金融市場からの圧力にさらされた。自ら専業化の道を選ぶなどした結果、「多国籍商社」というカテゴリー自体がほぼ消えたという。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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