簡易宿泊所が軒を連ねるエリアに意表を突く暖簾が目に留まる。築54年になる宿が見事にリニューアル(撮影/岸本絢)
簡易宿泊所が軒を連ねるエリアに意表を突く暖簾が目に留まる。築54年になる宿が見事にリニューアル(撮影/岸本絢)
リニューアル前の建物(写真:NENGO提供)
リニューアル前の建物(写真:NENGO提供)
「日進月歩」というネーミングも印象深い(撮影/岸本絢)
「日進月歩」というネーミングも印象深い(撮影/岸本絢)

 気軽に安く泊まれる簡易宿泊所。それがアートとリノベーションで再生した。川崎で生まれ、「日進月歩」と名付けられたゲストハウス。多文化共生の街にふさわしいスペースとして注目の的だ。

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 JR川崎駅東口から京浜急行の高架に沿って南の方向へ10分ほど歩くと日進町に出る。どこにでもあるような閑静な住宅街だが、立ち並ぶ簡易宿泊所が目に留まる。規模としては十数軒ほどだ。ここはかつて高度経済成長期には日雇い労働者が利用した宿泊所が軒を連ねるエリアとして栄えたが、労働者の高齢化もあって宿の多くは生活保護受給者の居住空間になっている。

 山谷・釜ケ崎・寿町といった歴史的な「寄せ場」(日雇い労働市場)においてもその事情は共通するが、もう一つの変化もある。最近では外国人も含めた旅行者や長期滞在者にとってビジネスホテルより格安で、気軽に泊まれる宿としても機能していることだ。

 そんな日進町の簡易宿泊所界隈に、意表を突くユニークなスペースが今年1月に誕生した。その名は「日進月歩」。1963年に建てられた簡易宿泊所をリニューアルして、アート感覚とアットホームな「おもてなし」で新しいゲストハウスに生まれ変わったという。

「日進月歩」の案内文には次のように書かれている。

<猥雑な文化的背景を持ち、雑多な様相に包まれる街「川崎」。アートとクリエイティブの力で新たな風を街に呼び込むべく、築54年の簡易宿泊所をリニューアルし、ゲストハウス「日進月歩」をオープンいたしました>

<“まるで美術館で寝落ちするような…”そんな感覚を大切につくりあげたお宿です>

 目を見張るのは、まず玄関で、小粋な割烹の入り口かと見紛うような暖簾と鮮やかな外装。玄関を上がってすぐに共用リビングがあり、冷蔵庫や電子レンジ、ポットなどの共用ツールはもとより、コミュニケーションの場として宿泊客同士が飲食しながら交流もできるように考えられている。リラックスできる椅子やこたつもあって、どこか田舎の民宿のような温かみとぬくもりを感じる。

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