がんの種類と復職率(AERA 2018年2月12日号より)
がんの種類と復職率(AERA 2018年2月12日号より)

 医療の進歩で、がん治療後の10年生存率は約6割に達している。がんと共に働く人は増えているが、企業の理解はまだまだ追いついていない。

 日曜日。東京・西新宿の閑散としたオフィス街の一角で、雑居ビルのエレベーターがせわしなく上下していた。「新宿ブレストセンター クサマクリニック」のあるフロアに止まる。

 2006年に開設した同クリニックは乳がんの検診、治療、手術を専門としている。開設時から土日診療を行い、日帰り手術も実施している。院長の日馬幹弘(くさまみきひろ)さんはこう話した。

「乳がん検診の受診率の低さが問題になり、『行かないから』と考えられていたが、それは違う。働く女性が増えているのに、多くの病院は会社から帰る時間帯には閉まってしまう。検診を受けろというほうが無理だ」

 予約は週末から埋まる。土日それぞれ60の予約枠を設けているが、平日と比べ週末は30代、40代の若い患者で一杯になる。日曜日の診察に来ていた川崎市の40代の女性に話を聞いた。派遣社員として保険関係の会社で働いているという。4年前、同クリニックで土曜日に日帰り手術を受け、月曜日から出社した。女性はこう話す。

「別の病院で、手術・入院で2週間かかると言われたのですが、仕事を長期間休むと派遣の契約を止められる不安があった。子どもが高校生と大学生で、お金がかかる時期。仕事を休みたくなかった。土日も診療する病院はほかに見つからなかった」

 国立がん研究センターの推計によれば、全がん患者のうち、働く世代(20~64歳)は全体の約3割を占める約25万人(13年)。医療の進歩で生存率も高まり、働く世代のがん患者も増えた。16年に改正がん対策基本法が成立し、「事業主が、がん患者の雇用継続に配慮するよう努めなければならない」と定めるなど対策をうながすが、日馬さんの実感はこうだ。

「遠方からも週末に日帰り手術の予約が入る。患者から『会社にバレないので助かっています』などと言われることも多く、がん患者に対する企業の姿勢はまだまだ不十分だと感じる」

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