夫がお迎えに行って先に帰っている日でも、寄り道をしてしまうことがありました。彼が今どんなにてんてこ舞いになっているかわかっているのに、子どものことは大好きなのに、体が「帰りたくない」と拒絶してしまう。罪悪感と帰宅拒否に引き裂かれて、ただ家の周りをぐるぐると歩いたこともありました。

 フラリーマンにもいろんな事情があるでしょう。ワンオペ育児妻を見て見ぬふりはひどいけど、家に居場所がないという人も。時間ができても何をしたらいいかわからないという人もいますね。

 でも想像してみて。定年したらこの時間が永遠に続くのです。こなすべきタスクが何もない透明な時間を、誰とどう過ごせば、生きている実感が持てるのか。フラフラしながら、よく考えてみるといいかも。フラ活は生活であり、老活なのです。

 私はかつての帰宅拒否時間は、心の健康のために必要だったと思っています。一人、東京で出稼ぎをしている今は、ドアを開けた途端にカオスにのまれるあの瞬間が、たまらなく懐かしいのです。

AERA 2017年12月4日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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