出展したロボットを見せながらの成果発表。製作者の二人は、中邑教授を説得してモーター数十個など部品の購入に成功した。熱意が扉を開く(撮影/植田真紗美)
出展したロボットを見せながらの成果発表。製作者の二人は、中邑教授を説得してモーター数十個など部品の購入に成功した。熱意が扉を開く(撮影/植田真紗美)
全国から集まるROCKET生たちは、従順な子羊などではない。厳寒の東北で漁に挑む老夫婦らの生き様に触れ、甘えた殻を脱ぎ捨ててきた(撮影/植田真紗美)
全国から集まるROCKET生たちは、従順な子羊などではない。厳寒の東北で漁に挑む老夫婦らの生き様に触れ、甘えた殻を脱ぎ捨ててきた(撮影/植田真紗美)
東京大学先端科学技術研究センター教授(人間支援工学分野) 中邑賢龍さん(61)/香川大学教育学部助教授、米国やスコットランドの大学で客員研究員などを経て現職(撮影/植田真紗美)
東京大学先端科学技術研究センター教授(人間支援工学分野) 中邑賢龍さん(61)/香川大学教育学部助教授、米国やスコットランドの大学で客員研究員などを経て現職(撮影/植田真紗美)

 受験に失敗したら才能がないのか。そんなことはない。キミの能力は眠っているのかも。そんな才能を呼び覚ます試みが今始まっている。

 将来ノーベル賞につながるような、先進的でユニークな研究者を育成できる場とは何か。どんな人材が群れを抜け出し、誰も考えつかなかった技術革新をなしうるのか。そもそも凡人が目指して取れる賞ではないし、賞の獲得を動機にした研究など本末転倒だが、突き抜けた才能は必ず、いつの世にも存在する。そうした人材発掘のヒントが、詰め込み教育とは無縁、東西の大学で進む二つのプロジェクトの中にあった。

「揃いも揃って変わり者のみなさんこんにちは。1期生のヘンな絵を描く不登校中学生のハマグチエイシです。こんな変わり者の私たちにとってここはとてもよい場所です。間違えないように、バカと思われないようにと過ごしてきた学校生活と、ここは全く違いました。『お前、バカなことしてるなあ』がここではむしろ褒め言葉なのです」

 東京大学先端科学技術研究センターで9月25日、日本財団と同センター共同の異才発掘プロジェクト「ROCKET」の成果発表会があり、濱口瑛士さん(15)はタブレットに綴った原稿を読み上げた。読み書きがうまくできない「書字障害」で、小学校時代から漢字のテストは毎回零点。幼いころから同級生らにイジメられ不登校になった彼は、絵やファッションなどの表現力に秀でた天才だ。まもなく第2弾の画集を世に出し、来春には絵本も出版する。

 発表会では他にも、自律型ミッションロボットで世界コンテストを目指す大阪の高校生コンビ、5次方程式に解の公式が存在しないことを証明する「ガロア理論」を淀みなく説明する小学4年生など約25人が、この一年の取り組みを披露した。

 このプロジェクトは、突出した才能がありながら、教育環境に馴染めず不登校傾向にある小中学生を選抜し、継続的な学習と生活の支援をする制度で、毎年500人以上の応募がある。初年度の2014年度は15人、15年度の2期生は13人、16年度の3期生は31人を選抜した。発表会で第3期は終了し、今年度から4期生が加わるが、ROCKETには「卒業」の概念はない。様々な分野で活躍するトップランナーによる講義、料理や工作など多彩なプロジェクトベースドラーニング(PBL)の他、数学・物理や歴史など興味の異なる5分野でグループ学習にも取り組み、個々人がやりたいことを申請し、自分の能力開発を加速させていく仕組みだ。

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