──なぜ、養子縁組が増えているんですか?

高原:もちろん、相続対策です。相続税の基礎控除額は「3千万円+相続人数×600万円」。ほかにも保険の非課税枠が増えるうえに、相続人1人当たりの法定相続分が減少するため、超過累進税率である相続税の税率(1千万円以下10%で順次上昇、6億円超で55%)が低くなって、相続税総額を減らすことができるんです。息子の嫁、ないし孫を1人養子にするだけで数千万円単位の相続税を節税できるケースも少なくありません。ただ、以前は敬遠される方が多かった。相続税の2割加算はあるにせよ、孫を養子にしてしまえば、父から子、子から孫という相続を1代飛ばせるじゃないですか? しかし、養子縁組すると「戸籍が汚れる」と考えて敬遠する人が多かったんです。でも、少子高齢化で相続人が減り、今年1月には最高裁で相続税の節税目的の養子縁組も有効であるという判決が出たことが影響しているのか、抵抗のない人が増えましたね。

●ヘルパーさんに数億円

福留:“争族”の原因で圧倒的に多いのは、親の介護絡みです。「何で、私が一番お父さんの面倒を見たのに、法定相続分しかもらえないの?」と。

寺町:遺産相続で揉めないように、しっかり遺言書を残していたのに、自分が要介護状態になる前に書いた遺言書だったから、一番面倒を見てくれた子どもに配慮した遺産分割になっていなくて、「私はもっと取り分を増やせませんか?」といった相談も少なくありません。メディアでは相続トラブルを避けるためにも遺言書を残しておくようにと頻繁に特集していますが、実際には遺言書を用意するだけですべてのトラブルが解消されるほど簡単でないことも多いです。一方で、うまくやったなと思った事例もあります。旦那さんが亡くなって遺言書どおり、遺産はすべてその奥さんが相続したのですが、実は1億円近い死亡保険金を一番面倒を見てくれた次女が受け取るようにしていました。遺言書にその保険金のことを書いていなくても次女が取得できますし、次女を除く子どもたちは全部の遺産を母親が相続したと思っています。相続税申告書も奥さんと次女にしか送付しませんので、次女以外の子どもたちは次女が保険金を取得していると気づかないわけです。

高原:私が担当した例でいうと、亡くなった方が「ヘルパーの△△さんにすべての遺産を譲る」という遺言書を残していて、実の息子さんから「何とかなりませんか?」と相談を受けたケースがありましたね。亡くなった方は都心にかなりの不動産を持っていた大地主で、ヘルパーさんは6億~8億円近くの資産を取得して、すぐにそれを売却して田舎に引っ込んでしまっていました。最終的にはヘルパーさんに遺留分の減殺請求を行って、2億円ほど取り返すことができたんですけど、息子さんは不満でいっぱいでした。そのヘルパーさんがいなければ、8億円程度の資産を相続できていたはずですからね。結局、息子さんが親の介護をせず、単身赴任で働いていたことで、被相続人は「ヘルパーさんにあげたい」となったようです。

(構成/ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2017年7月10日号