福留:旬と言えるのかわかりませんが、相続税対策を謳って、区分所有のオフィスを販売する業者が増えましたよね。相続税を算定する際の基準となる相続税路線価は住宅地ですと、東京都内の高級住宅街でも1平方メートルあたり30万~50万円ですけど、都心部のオフィス街ですと1平方メートル数百万~1千万円以上というのもザラ。建物は時価の50%前後で評価され、第三者に貸している場合は評価額の30%の控除が可能になるうえに、さらに土地について200平方メートル以下の場合は小規模宅地等の特例が受けられて評価額が半分になります。億単位の現金資産を持っている資産家は、アパートを建てるよりも高額の節税対策ができるとして、区分所有のオフィスを買っているケースは少なくありません。それでも、やっぱりアパートを建てるのが、相続税対策の常套手段ではありますが。

●相続税をゼロにも

──アパートに関しては、相続税対策で建てる人が増えすぎて、供給過剰になる可能性を内閣府も指摘しています。それでも、建てる人は減らない?

福留:簡単に言ってしまうと、相続税対策には大きく三つのパターンしかありません。生前贈与と保険(相続人数×500万円まで非課税)とアパート建設です。そのなかで、生前贈与が1人につき年間110万円、保険が1人につき500万円という枠なのに対して、アパートはまとまった金額を節税できてしまう。1億円の現金があったら、そのまま課税されてしまいますが、土地なら評価額は80%になり、アパート建設の資金を融資してもらったら、その残債は相続税評価額から差し引けて、賃貸物件なら建物価格の評価は70%に減額されます。乱暴に言うと、借金を増やして収益性の高いアパートを建てれば、相続税をゼロにできてしまうケースも少なくありません。ただ、相続後に賃貸経営がうまくいくかは別の話ですが……。

●息子の嫁や孫を養子に

寺町:おっしゃるとおり、アパートを建てるだけで相続税は大幅に減額できますが、その後の経営を考えていない方は多いですよね。地方だと先祖代々受け継がれている土地が多く、相続人が被相続人から生前に「この土地を守っていってくれ」と頼まれて、何とか土地を手放さなくて済むようにとアパートを建てて相続税を引き下げているケースも少なくありません。けれど、郊外の“駅遠”物件だと、客付けがうまくいかず、結局、借り入れの返済ができなくなり、土地も手放さざるをえなくなったというケースはよく聞きます。

高原:旬でいうと、最近、養子縁組をされる方が増えた印象はないですか?

寺町:それはありますね。数年前まで、「おれは絶対に養子縁組などしない!」と言っていた資産家の方が、今年になって「やっぱり養子縁組することにしたよ」と言ってきたんです。

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