「無精子症であっても、顕微鏡を使った手術で48%の人は精子を採取でき、73%が妊娠に至ります」(岡田医師)

●精子凍結しても結婚

 同院では、受診した日のうちに精子凍結保存ができるシステムを整備した。週に1人のペースで相談が寄せられ、なかには小児がんを患う思春期の男子も。だが、ここにも課題がある。

「実績豊富なある総合病院には、10年以上も保存している精子がありながら、実際の使用はわずか1~2%と報告されています。がんになった男性は、就職困難で経済的なハンディを負い、結婚に至りにくいためだと考えられます」(岡田医師)

 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科外来医長の清水千佳子医師は、

「子どもを持つことが成功、持たないことが失敗ではなく、患者さんが納得することが大切」

 と言う。清水医師は、若年の乳がん患者が悩み、さまざまな選択をする場面に接してきた。

●かかりつけ婦人科を

 30代後半のある患者は、乳がんがリンパ節に転移していたが、妊娠を優先し、抗がん剤治療は出産後まで待った。乳がんの手術後すぐに自然妊娠し、出産できたものの7年目に再発。それでも、子どもを持ったことを後悔していないと話していた。

 別の30代後半の患者は夫とよく話し合い、それまでも強く子どもを望んでいなかったことから、納得してがんの治療を優先した。また別の30代後半の患者は独身だった。卵子凍結を検討したが、妊娠・出産できる確率が高くはないことを知り、がん治療を優先した。

 がんになったら、主治医と生殖専門医、そして家族と十分に話し合っておきたい。

「妊孕性について考えることは、がんになるまでの人生を振り返り、その後の人生をどう生きるかを真剣に考える機会を与えてくれます」(清水医師)

 今年2月、国立がん研究センター中央病院では、がん医療と妊娠の相談窓口を開設した。あらゆるがんの妊孕性について相談を受け付けている。

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