抗がん剤の影響を避けて妊孕性を維持するためには、生殖医療の技術を用いる。大きく分けて三つ、卵子を採取して保存する「卵子凍結」、自分の卵子とパートナーの精子を受精した状態で保存する「受精卵凍結」、そして卵巣を摘出したうえで小さくカットし、保存する「卵巣組織凍結」だ。卵巣組織凍結は研究段階だが、世界で82例の出産が報告されている。

●排卵誘発剤で悪化も

 だが、これらの方法はすべての患者に適用されるわけではない。がんの病状のほか、患者の年齢に大きく左右される。

「卵子の数は胎児期に決まっており、年齢と共に減少します。個人差が大きく、35歳でも20代後半並みの人もいれば、閉経に近い人もいる」(鈴木医師)

 さらに、卵子の採取は排卵日を待たなければならず、がんの治療が遅れる可能性もある。卵子の採取に使う排卵誘発剤が、がんを悪化させることも懸念される。卵子や受精卵を凍結保存できても、子宮内に受精卵を移植するタイミングが難しい。がんが再発しないか厳重に経過観察しながら、将来的に子どもを育てられるかも考慮するからだ。

 冒頭の女性は、こうした困難を理解したうえで不妊治療を受け、生理が回復。受精卵凍結をへて、37歳で出産できた。

「あくまでも優先されるべきは、がん治療です。それでも希望を失わずに主治医に相談し、産婦人科の生殖専門医を紹介してもらってください」(鈴木医師)

 がん治療は、男性の妊孕性にも影響する。獨協医科大学越谷病院泌尿器科主任教授の岡田弘医師は次のように説明する。

「精巣がんや膀胱がんなどで骨盤内のリンパ節や臓器を摘出した場合、勃起障害や射精障害が起こり得る。抗がん剤治療や放射線治療で無精子症や精子機能障害などが生じることもある」

 男性の妊孕性を保つために、古くから精子の凍結保存が行われてきた。通常は、マスターベーションによって採取した精子を凍結し、人工授精や体外受精をさせる。それができない場合は、手術で精巣から精子を取り出して顕微授精に用いる。

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