さまざまなルートで行われる、安倍政権によるメディアコントロール。その原点はどこにあるのか。

 政治部記者として活躍した岸井氏は、安倍首相の父、安倍晋太郎元外相の番記者を務めたこともあった。秘書などとして仕えていた若き安倍首相の姿も見ている。その岸井氏が、政治家として踏み出したばかりの安倍首相にとって「トラウマだったのではないか」とみる出来事がある。

●初当選の直後に「椿発言」問題

 1993年の総選挙後に発覚した「椿発言」問題だ。この選挙で自民党は下野し、55年体制が崩壊した。当時のテレビ朝日の椿貞良報道局長は、選挙報道にあたり「非自民政権誕生を意図して報道」するよう指示したと批判され、国会に証人喚問される事態にも発展した。この選挙で初当選を果たしたのが安倍首相だった。

「新人議員の目には、放送の怖さのようなものが印象づけられたのではないか」(岸井氏)

 それから23年の歳月が流れ、まもなく投票日を迎える参院選。前出の水島氏が、NHKと民放各局の報道番組を調べたところ、NHKが与党自民党を取り上げる時間が長い傾向にあるという。

 公示日に放送されたNHK「ニュース7」が顕著だった。水島氏が番組内のインタビュー時間を計った結果、自民党の安倍総裁が21分57秒だった。民進党の岡田克也代表は12分4秒、公明党の山口那津男代表は7分57秒、共産党の志位和夫委員長は7分と続き、最も短い新党改革の荒井広幸代表は44秒だった。

「公示から投票までのニュースでは、各党間で不平等な扱いをすると公職選挙法に違反する恐れがある。機械的に各党や候補の露出時間や発言機会を平等にするのが、民放では一般的だと思っていたので驚いた」

 と水島氏は言う。

 一方、NHKはアエラの取材に「公職選挙法に定められた選挙放送の番組編集の自由に基づいて、自主的に決めています」と回答した。ただ、

「露出時間が長いほど投票で支持を得やすいことは、研究でも明らかです」(水島氏)

 たび重なる安倍政権のメディアへの働きかけが、国民の知る権利を脅かす。

「執拗かつ巧妙」

 前出の岸井氏は、何度もそう繰り返した。(編集部・宮下直之)

AERA 2016年7月11日号