要請は一見、公正な報道を望んでいるだけのように見える。だが、こうした政権与党による働きかけは、その後のテレビの選挙報道に一定の「効果」をもたらしている。

「街頭インタビューがテレビから消えた。因果関係の証明は難しいが、私は自民党の要請によって、番組内容に明らかな変化が起きたとみている」

 上智大学の水島宏明教授(テレビ報道論)はそう話す。水島氏は、衆議院の解散表明前日から選挙戦の最終日まで、NHKと民放各局の主な報道番組と、ワイドショーなどの情報番組の内容約710時間分を分析した。

●停波の可能性に言及した総務相

 すると、自民党が各局に文書を出した11月20日以降、民放のワイドショーなどで街頭インタビューがほぼ見られなくなったことがわかった。文書による要請前までは、各番組で放送されていたにもかかわらずだ。報道番組でも、局による違いが目立った。TBSとテレビ朝日では「街頭インタビューを意欲的に報道していた」(水島氏)が、日本テレビではまったく確認できなかったという。

「街の人たちの声や実感を聞いて伝えることは、テレビ報道の基本的な機能の一つ。選挙期間にそうした機能が失われてしまったことは、有権者にとってマイナスだった。しかし、街頭インタビューを放送して、一歩間違えれば自民党や政府が抗議してくるかもしれないと思えば、放送をやめてしまおうと考える番組制作者が出てきてもおかしくはない」(同)

 16年4月、日本政府の招きで表現の自由に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏が来日した。約10日間の滞在で、数十人の報道機関の関係者、ジャーナリスト、研究者らと会い、日本のメディアや言論の自由の状況について調べたのだ。そのケイ氏が離日する際、会見でこんな指摘をしている。

「公平性を求める政府の圧力が、メディアの自己検閲を生み出している」

 滞在期間中、ケイ氏が面会を求めたが会えなかった人物がいた。高市早苗総務相だ。高市氏は2月8日の国会答弁で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法第4条に違反するとして、政府は「電波停止」を命じる可能性があると主張した。一方、ケイ氏は、政府のメディア規制の根拠になりうる放送法第4条の廃止を訴えている。

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