●オフレコ懇談で政治家が一斉批判

 立教大学の砂川浩慶教授(メディア論)もこう指摘する。

「放送法は、表現の自由をうたった憲法21条に基づいている。したがって、政治的公平性を判断基準にして、電波停止などの罰則を科すことができるとすれば、放送法は憲法違反になってしまう」

 砂川氏はさらに、自民党や安倍政権のメディア観を表す例として、15年4月17日に自民党の情報通信戦略調査会が、番組内容についての説明を求めるため、NHKとテレビ朝日の幹部を呼びつけたケースを挙げる。

「前代未聞で、あってはならないことだった。放送法第1条に掲げられた『放送による表現の自由を確保する』という目的は、行政府に対して求められている。本来ならば総務省は、公権力の介入という形で表現の自由を妨げた自民党に行政指導を行うべきだった。安倍政権や自民党の言動から垣間見えるのは、メディアは『悪』で、懲らしめるものという誤った価値観だ」

 毎日新聞社の岸井成格(しげただ)特別編集委員も、高市氏の「電波停止」発言に抗議する一人だ。発言を受けて、金平茂紀氏、田原総一朗氏、鳥越俊太郎氏といったジャーナリストとともに、日本記者クラブなどで緊急会見を行っている。

 TBS「NEWS23」のアンカーを務めていた岸井氏は、一部全国紙の意見広告で、番組中の発言に対する非難を浴びた。広告の呼びかけ人は、安倍氏のブレーンといわれる人物を含む、保守系の著述家らが中心だった。広告掲載から約4カ月後に番組を降板することになったため、さまざまな推測が飛び交った。

 岸井氏はこう話す。

「私に直接、圧力がかかるということはなかった。ただ後から、政権や与党の幹部が、番組の作り方について、不満や不快感を持っていたという情報は耳にした。執拗かつ巧妙。彼らのそんなやり方もわかってきた」

 たとえば、報道各社の記者と、政権や与党の幹部との間で行われるオフレコの懇談で「NEWS23の岸井の発言はおかしい」といった批判が一斉にとび出したことがあった。発言はオフレコなので表には出ないが、各記者はメモを作って上司らと共有する。すると、政権や与党幹部の考えが、報道機関の中枢にも静かに「浸透」していく。

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