「気持ちを聞くことは、彼らを認めていることになる」

三つ目は、具体的な指示を出し過ぎないこと。

「監督が細かいことまで言うと、自分で考えなくなる。丸投げはしないけれど、問いかけだけ。誰でも自分で考えたことがうまくいくと面白くなるでしょ」

 全員が主体的になり、集団の質は上がった。「目標管理シート」に、週ごと、月ごととショートスパンで目標を設定し、何をやるべきか考えさせた。

 原さんは「目標の半歩先」を注視する。箱根で優勝争いをするには、1万メートルが28分45秒以下のランナーを揃えることが目標になるという。それを性急に達成しようとしても無理。例えば、タイムが30分だった選手が10秒でも縮めたら、ほめる。

「『おまえはまだまだ、30分切ったくらいで喜ぶな』と言われればやる気をなくすでしょ」

 その選手が「来週こそ28分台で走ります!」と言えば、「無理するな。体重80キロ台の俺が、来週70キロにならんだろ」と、わかりやすく、笑えるネタを入れて諭す。そうして半歩ずつ」前進させるのだ。

 脳に詳しい篠原菊紀・諏訪東京理科大学共通教育センター教授は、「ワクワク大作戦」は脳科学的にも有効だと説明する。

「原さんのように、対話して、認めて、ほめると、やる気にかかわる大脳基底核の一部である“線条体”が活性化する。次もやればほめられる、とやる気の条件づけがしやすくなる。これは“強化学習”と呼ばれる。目標設定が半歩ずつなのも効果的。少し頑張れば実現可能だと思える。学業も同じです」

 線条体は、行動と情感を結びつけたり、筋緊張の調整に関与したりする神経細胞の集合体で、原さんはここをうまく刺激している。

AERA 2015年5月18日号より抜粋