介護スタッフにとって、入居者の排泄ケアを行うことは当たり前だが、やはり当人は大きなショックを受けるという。

「80代の女性で、受け答えもはっきりしているんですけど、においをあまり感じられなくて、便が漏れていることに気づけないという方がいました。清拭している間、『ごめんなさいね』って、悲しそうな顔で何度も謝られているのを見ると、やはり胸が痛みます」(前出の介護福祉士の女性)

 ひと口に便失禁と言っても、その症状は一つではない。白畑医師は、「便失禁には大きく二つのタイプがある」と話す。

「一つは、気づかないうちに便が漏れてしまう『漏出性便失禁』。もう一つは、便意は感じるけれどトイレまで我慢し切れずに漏れてしまう『切迫性便失禁』です。ただし実際には、二つの症状はきれいに分かれるものではなく、漏出性と切迫性が混在した混合性の患者さんも多くいらっしゃいます」

 原因もさまざまだ。

「いちばん多いのは、お尻を締める筋肉が衰えて漏れてしまうケース。通常であれば、内肛門括約筋が機能して無意識に肛門を閉じているため、便が漏れることはありません。しかし加齢によって筋力が衰えたり、女性の場合は出産によって筋肉が損傷したりすると、肛門の締まりが悪くなって漏れてしまうことがあります」

 また、肛門ではなく、直腸に原因があることもある。

「誰しも経験があると思いますが、便が固まらず水っぽいと、不意に漏れてしまうことがあります。こうした軟便や下痢が続く場合は、過敏性腸症候群の疑いがあります」

■便漏れの恐怖 抑うつ状態に

 これ以外にも少数ではあるが、脊髄損傷や糖尿病によって肛門の神経がうまく機能しなくなったり、痔が悪化したりすることで、便失禁の症状が出ることもある。

 ただ実際には、病気ではない人も多い。お酒の飲みすぎや偏った食事など、生活習慣が原因で便漏れが起こりやすくなっているケースも少なくないそうだ。

 白畑医師は、「肛門や直腸に異常があるのか、それとも生活習慣の問題なのか、それをはっきりさせるためにも気後れせずに病院を受診してほしい」と話す。

次のページ