「実は便漏れに悩んでいても、『恥ずかしくて人に相談できない』『病院のどんな科に行けばいいのかわからない』といった理由から、治療せずに放置してしまう方がとても多いんです。便失禁の自覚症状がある方のうち、約75%が誰にも相談できず、医師に相談したのは10%程度という調査データもあります」

 便失禁の怖さは、こうした理由から「精神的な孤立状態に陥りやすい」点にある。

「便が漏れただけで命が危険にさらされることはありません。それよりも自尊心が傷つけられたり、人前で漏らした経験がトラウマになったりして、精神的ダメージを負うことのほうが重大です。どこに行くにも、『近くにトイレがない場所は行きたくない』『電車の中で我慢できなくなったらどうしよう』といった不安が先立つようになります。その結果、家の中に閉じこもりがちになって、抑うつ状態になってしまう方もいる。“人生の生きがい”を奪われてしまうところが、この病気のいちばんやっかいなところなのです」

 病院の受診率が低い背景には、「便失禁という病気自体が、まだまだ社会的に認知されていないこともある」と白畑医師は指摘する。

「患者さんのせいではなく、病気のせいなんですから、恥ずかしいことでも何でもない。そして治療すれば必ず治りますと伝えたいです。もっと気軽に相談できるような状況をつくっていく必要があると感じます」

 では、便失禁は、どうすれば治るのか。

 便失禁治療のスペシャリストとして、数多くの患者の治療にあたってきた亀田総合病院消化器外科部長の角田明良医師に、治療の工程と方法について聞いた。

「まずは、便漏れの症状や頻度、食習慣などを聴取したうえで、薬物療法を中心とした治療を進めていきます。高齢になると肛門の締まりが緩くなり、便が軟らかいと漏れ出てしまうことが多くなる。その場合は、ポリカルボフィルカルシウムやロペラミド塩酸塩といった薬を用いて、便を硬くまとめることで症状が改善していきます」

 薬物療法で思った効果が得られない場合は、肛門の括約筋に原因があることが考えられるという。

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