「女性で特に多いのは、分娩によって筋肉が損傷しているケースです。逆子で難産だったり、吸引・鉗子分娩などを行った場合は、肛門に相当な負担がかかって外肛門括約筋が断裂してしまうことがあります。それでも若いときは問題ないのですが、加齢によって筋肉が衰えてくると、過去に損傷した部位がうまく機能しなくなって便漏れをきたすことがあります」

 疑わしい場合は、肛門の超音波検査を行い、肛門括約筋が切れていないか検査を行う。もしも損傷が認められるようであれば、手術を検討する段階に入っていく。

「手術方法は主に二つあります。一つは、肛門括約筋形成術です。これは損傷した筋肉を直接縫合して肛門括約筋を再建する術式。もう一つは、仙骨神経刺激療法です。体内にペースメーカーのような刺激装置とリードを埋め込み、仙骨神経に電気刺激を送ることで、肛門括約筋の動きを回復させる効果が期待できます」

■自宅でできる「骨盤底筋体操」

 一方で、肛門の筋肉には異常が見られず、直腸に原因がある場合もある。

「いちばん多いのは『直腸脱』です。これは直腸の一部が肛門の外側に飛び出してしまう病気。排便時にいきむたびに、直腸が出たり入ったりすることで、肛門がうまく閉じなくなり便漏れが起こる可能性が高まります。そのため直腸が外に出ないように手術しなければなりません。それから『直腸瘤』といって、直腸の前側(陰部側)の壁が瘤のように出っ張っている方もいます。瘤が原因で、排便時にいきんでも便が出きらずに残ってしまう。その結果、時間が経ってから、残便が肛門から漏れ出て下着を汚してしまうといったこともあります。この場合も手術が必要です」

 これらの手術はいずれも保険適用だが、3~4日程度の入院が必要になる。

 一方で、手術が必要になるほどの損傷や異常が認められない場合は、「バイオフィードバック療法」を選択することも可能だ。

「これは簡単に言うと、肛門の筋力や動かし方についてデータを採集し、それを患者さんにフィードバックしながら適切なトレーニングを施すことで、便失禁の改善を図る療法です。筋電図などを使って、肛門の内圧やいきんだときの力のかかり具合を調べる。その結果を基に、数カ月間にわたって肛門を締める訓練を積んでいきます」

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