■ドイツ文学者・松永美穂

(1)『非暴力の力』(J・バトラー著、佐藤嘉幸ほか訳 青土社)

(2)『ぼくらの戦争なんだぜ』(高橋源一郎 朝日新書)

(3)『太陽諸島』(多和田葉子 講談社)

 ロシアの軍事侵攻が世界を揺るがした年だった。「非暴力」について知りたくて(1)を手に取った。この本は「命の哀悼可能性」が重要なテーマになっている。そういえば「国葬」も話題になったが、地球上の命の重みにこんなに差があっていいのだろうか。戦争をめぐる大きな言葉、小さな言葉を例示する(2)からも多くの示唆を得た。(3)における「旅」は、非暴力と共生の可能性を示している。

■書評家・吉田伸子

(1)『プリンシパル』(長浦京 新潮社)

(2)『光のとこにいてね』(一穂ミチ 文藝春秋)

(3)『宙ごはん』(町田そのこ 小学館)

 (1)は、終戦直後、ヤクザという家業を背負わざるをえなかったヒロインの、孤高と孤独に胸を打たれる。(2)は、小学生の時に出会った2人の女子の、四半世紀にわたるドラマを描いたもの。寄る辺ない2人が、お互いに手を伸ばしあう様が切なくも愛おしい。(3)は、2人の“母”を持つ少女・宙の成長物語であり、家族小説でもある。誰かと食べるご飯、誰かと囲む食卓。その温もりと尊さと。

週刊朝日  2023年1月6-13日合併号