■作家・長薗安浩

(1)『異常(アノマリー)』(H・ル・テリエ著、加藤かおり訳 早川書房)

(2)『愚か者同盟』(J・K・トゥール著、木原善彦訳 国書刊行会)

(3)『気狂いピエロ』(L・ホワイト著、矢口誠訳 新潮文庫)

 小説には大なり小なり「常ならぬ出来事」が付きものだが、(1)が用意しているそれは、タイトルどおりこちらの予想をはるかに超えてくる。優れたSFでありミステリーであり純文学でもある、小説好きにはたまらない傑作。(2)は81年度ピュリツァー賞を受賞した奇人変人たちが暴走する伝説のカルト文学。(3)は故ゴダール監督の名作の原作とされる犯罪ノワールの金字塔。(2)(3)とも初邦訳!

■文芸評論家・長山靖生

(1)『地図と拳』(小川哲 集英社)

(2)『呼び出し』(H・ミュラー著、小黒康正ほか訳 三修社)

(3)『異常(アノマリー)』(H・ル・テリエ著、加藤かおり訳 早川書房)

 (1)は満州に誕生した虚構都市を舞台に、人間の理想や欲望の顛末を描き切り、大部ながら読者を飽きさせない。(2)は独裁政権下のルーマニアで、国外逃亡疑惑を持たれた女性が、当局から精神的拷問のような追及を受ける不条理小説。(3)はある現象から、もう一人の「自分自身」に対峙することになった人間の心理を抉る。優れた小説は架空の設定を交えることで、象徴的に世界の深層を表現する。

■ライター・温水ゆかり

(1)『パンとサーカス』(島田雅彦 講談社)

(2)『リバー』(奥田英朗 集英社)

(3)『君のクイズ』(小川哲 朝日新聞出版)

 (1)は日本を真の主権国家にすべく、CIA職員の寵児と暴力団2代目空也、その妹で巫女体質のマリアの3人で世直しを謀る冒険譚。著者の視座にスカッとする。(2)の肝は、栃木と群馬の2県警合同捜査ではなく共同捜査というところ。1冊で2冊分。エグい群像劇がダブルで楽しめる。(3)は問いが発語される前に正解する“クイズ脳”についての物語。「ママ.クリーニング小野寺よ」の着地がお美事。

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