『週刊朝日』の書評欄「週刊図書館」の執筆陣28人のうち14人の方々に、2022年に発売された作品の中から「私のベスト3」として、おすすめの3冊をそれぞれ選んでいただきました。後編です。

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■詩人、比較文学者・管啓次郎

(1)『優しい地獄』(I・グリゴレ 亜紀書房)

(2)『絡まり合う生命』(奥野克巳 亜紀書房)

(3)『絶滅動物物語』(うすくらふみ 小学館)

 ルーマニア出身、青森県で暮らす人類学者の(1)は新鮮な日本語がすばらしい。溌剌とした思考と情動が自己の記憶を旅する。マルチスピーシーズ(多種の)人類学をリードする著者の(2)は切実な問題提起。人間主義に別れを告げて、地球生命をまるごと考え直す必要がある。ヒトが他の種をどう絶滅させてきたかを知るには(3)の漫画が必読。小学生レベルで共有したい、現代の火急の基礎教養だ。

■文筆家・鈴木聞太

(1)『ラスト・ワルツ 胸躍る中国文学とともに』(井波律子著、井波陵一編 岩波書店)

(2)『仰天・俳句噺』(夢枕獏 文藝春秋)

(3)『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』(羽鳥好之 早川書房)

 (1)は20年5月に惜しまれて逝った中国文学者の最後のエッセイ集。タイトルのロックの曲名と副題の熱い思いが同居した快さに献杯。(2)は文学に立ち向かう姿勢と告知されたガンに立ち向かう心意気が共感できる。明るく大らかで、かつ謙虚な作者らしい声が満載。(3)は難しいとされる江戸初期の武家の荒々しさが物語に通底する。この柄の大きさはそうあるものではない。期待が膨らむデビュー作。

■ミステリー評論家・千街晶之

(1)『名探偵のいけにえ』(白井智之 新潮社)

(2)『アナベル・リイ』(小池真理子 KADOKAWA)

(3)『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』(H・ルーベンホールド著、篠儀直子訳 青土社)

 (1)は22年の国産ミステリーを代表する傑作であり、恐らくミステリー史にも残る筈だ。(2)は22年最恐の怪談であり、「何故その幽霊は現れるのか」という動機探しミステリーとも言える。(3)は、犠牲者は娼婦ばかりという切り裂きジャック事件の通説を覆し、実際には20年に起きた幡ケ谷バス停殺人事件のような、貧困で居場所を失った女性の悲劇だったことを立証したノンフィクションの労作。

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