役所広司(やくしょこうじ)/ 1956年、長崎県生まれ。カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した「うなぎ」(97年)をはじめ数多くの作品で活躍。近作に「すばらしき世界」(2021年)、「峠 最後のサムライ」(22年)ほか。「ファミリア」の成島出監督とは「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(11年)などでタッグを組んでいる。
役所広司(やくしょこうじ)/ 1956年、長崎県生まれ。カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した「うなぎ」(97年)をはじめ数多くの作品で活躍。近作に「すばらしき世界」(2021年)、「峠 最後のサムライ」(22年)ほか。「ファミリア」の成島出監督とは「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(11年)などでタッグを組んでいる。

 国や民族が違えば、当然ながら文化や習慣にギャップはある。それを埋めるには時間がかかるかもしれません。でも神谷のように関わることで見えてくるものもある。

 撮影で出会った彼らはエネルギッシュでパワフルでした。とにかく陽気で、極寒のなか薄着での撮影にも快く付き合ってくれた。映画撮影という経験を楽しもうとする思いが伝わってきて、すごくありがたかったです。

 彼らのような人々に思いを寄せるには、他人の痛みを感じる人間を育てなければならない。それには結局、大人や社会が子どもたちにどんな姿を見せているかが重要なのだと思います。すべては大人の責任なんです。大人は下の世代のために何かをしてあげる必要がある。そうしなければこの国は本当に心の貧しい国になってしまう。

――役所さんは現実世界でも若い世代の未来を考え行動を起こしている。日本映画界の労働環境改善やハラスメント防止などを視野に立ち上げられた是枝裕和監督らによる「日本版CNC(*)設立を求める会」に賛同し、応援メッセージを寄せている。

*CNC=フランスの支援機関「国立映画映像センター」。興行収入などの一部を徴収し、助成金として業界全体に資金を還元する「共助」の仕組みをもつ

 僕の周りにもコロナ禍で仕事を失い、辞めていく若い俳優やスタッフがいました。せっかくこの世界に憧れて入ってきた才能のある人たちに、日本の映画界はなかなか手を差し伸べてくれない。もったいないし、業界にとっても損失ですよね。若い人たちが働きたいと思える環境を整えて、彼らを守っていく態勢がないと、このままでは本当に日本映画は痩せていってしまう。

 同時に自戒の念もあります。「Shall weダンス?」(96年、周防正行監督)のクランクイン前にダンス教室に通ったんですが、覚えたステップを忘れたくないので京都で時代劇の撮影中、女性スタッフに「ちょっと体貸して!」と頼んで、ダンスの練習をしてもらったことがあった。「これ、いまやったらセクハラじゃないか?」とヒヤッとしました(笑)。僕も意識を改めて、気をつけないといけません。

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