『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)

「仕事として受けると『おもしろい話を書かねば』とプレッシャーになりますが、自分のマガジンなら、バズろうがバズるまいが気にしなくていい。自分自身が楽しいから書き続けられる環境を大切にしています」

 作家は作家でも「スープ作家」というユニークな肩書でレシピ本やエッセー集を執筆するのが、有賀薫さん(58)だ。

新刊『ライフ・スープ』から
新刊『ライフ・スープ』から

 最小限の材料と調味料で手軽に作れるレシピが人気を呼び、共著を含め13冊の本を出した。新刊『ライフ・スープ』(プレジデント社)では「ミネストローネ」「ポトフ」「アジアのスープ」など13の定番スープを取り上げ、「基本」「応用」に分けて紹介する。

 大学卒業後、メーカーに就職。退職・結婚し、1児の母となった。作家活動を始めたのは40代後半。朝が苦手な息子のために毎朝スープを作るようになり、SNSに投稿を始めたことがきっかけだった。趣味で絵画を習い、時折展示を行っていたことから、撮りためたスープの写真展を開いたところ、反響が大きく、仕事にすることを考えるようになった。

 本にするため企画書を作り、出版社に送ったものの反応は鈍かった。

「担当者はおもしろがってくれるんですが、その上の企画会議は通らない。ずぶの素人なので、普通に考えて本なんて出るわけがないんです」

 それでも諦めきれず、「スープ・ラボ」という料理教室を始め、内容を「note」に投稿し続けた。参加者に紹介された編集者を通じ、ようやく初著書の出版が実現したのは2016年のこと。SNSで投稿を始めて5年が経っていた。

 SNSを使えば誰もが自身の作品を公開できる世の中にあって、職業作家を目指すなら、どんな心構えが必要だろうか。

「まずは量産することです。noteを見ていると、内容はすごく良くても投稿が続いていないケースがありました。プロを目指すなら、70~80点でもいいので、毎日何かしら投げ続けられるといい。動機も大切。初めは自分のためでも、家族など『誰かのため』という思いが出れば継続しやすくなると思います」

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