今の世の中に溢れる音楽については、戦略が先走っている印象を持っている。

「この要素を入れておこうとか、こうしたほうが受ける、といった計算が透けて見えてしまうと、音楽が、商店街で通路ギリギリまで陳列されているお買い得商品のように思えてしまう。そうじゃなくて音楽は、もっと怪しげな、見えない暗闇を持っていていい。わかったりわからなくなったり、好きになったり嫌いになったり。飽きたり懐かしくなったり。感情が行ったり来たりするのが音楽だと思うから」

 最後に、年齢を重ねることの醍醐味について訊くと、「なんでも受け入れながら生きてきたので、感謝する気持ちはありますが、醍醐味はまだわからないです」と答えた。

「今まで、嫌なこともいいこともたくさんあって、それが人生だと思って生きてきました。もし、死ぬ間際にでも、『これが人生の醍醐味か』と感じることができたら、それはラッキーだなと思います(笑)」

(菊地陽子、構成/長沢明)

財津和夫(ざいつ・かずお)/1948年生まれ。福岡県出身。大学時代の仲間を中心に71年チューリップを結成。翌年デビュー。「心の旅」「青春の影」「虹とスニーカーの頃」などをヒットさせる。78年からソロ活動をスタート、「WAKE UP」「サボテンの花~ひとつ屋根の下より~」などを発表。松田聖子らへの楽曲提供も。コンサート、プロデュース業、俳優、大学教授、講演会など、さまざまな分野で活躍。

週刊朝日  2022年2月25日号