◆好きな曲の前では成長したくない

 先日、家でポール・マッカートニーのライブ配信を観ていたとき、観客がみんな泣いているのに気づいた。財津さんも一緒に泣きたくなって、それと同時に、「チューリップのライブに来てくれる人も、音楽が聴きたいというより、泣きたいのかもしれない」と思った。

「コンサートだから、はしゃぎたい部分もあるけれど、結局は、青春を過ごしていた時代の気分になって泣いてしまう。そうやって青春の時間に一瞬で引き戻してくれる力があるのがポピュラー音楽なんだと思います。たとえば絵画って、年をとっていくにつれて、見方が変わったりする。でも音楽は、成長した自分と、何十年前の曲が出会うのではなくて、一瞬にして当時の自分に戻れるツールで。そこに大きな違いがある。人間って、たぶん、好きな曲の前では成長したくないんでしょうね。美術鑑賞やクラシック鑑賞は知的な行為だけど、コンサートに行くというのは、とても動物的な行為だと思います」

 とはいえ、財津さんの歌詞には、さりげなさの中に心を揺さぶる、なんともいえない叙情がある。「心の旅」で、「愛に終わりがあって/心の旅がはじまる」と綴ったのは、財津さんが25歳のときだ。

「歌詞を書くときは、深く考えていないんです。小さな子供が、耳に飛び込んできた歌詞や歌や大人がしゃべっていることを聞いてまねするように、いいなと思った言葉を無意識にピックアップして、それを並べ直して、メロディーに乗せているだけ。意味がわかっていて書いていたわけじゃない。もっと物事を深く考えながら自分の言葉として作詞しようとしたら、書けてないかもしれないです。無知な、何もないところに、落ちてきた言葉だからよかった。なぜその言葉が引っかかったのかは、自分でもわかりません。でも、そこが大事なんです。考えて練られた言葉ではなく、直感的に引っかかった言葉であることが。大袈裟にいえば、その無意識こそが、人知のレベルを超えるきっかけになるのかもしれない」

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