これとは違った形でいのちを感じることもあります。私は2年に1回は内モンゴル自治区のホロンバイル草原に出かけます。草原に一人で立って、虚空を体感するのです。すでに15回以上、行きました。

 そこは四方八方すべてが地平線という空の青、雲の白、草の緑の3色の大きな空間。なかでもとりわけ異彩を放っているのが、空いっぱいに広がる白い雲の躍動感です。さまざまな形と濃淡を変化させながら広大なシンフォニーを奏でているのです。千キロ以上も車で大草原をひた走ることが珍しくありませんが、この雲のシンフォニーを見ていると、少しも退屈ではないのです。運転手が雲の由来を語ってくれました。広大な草原を形づくっている草の葉の一枚いちまいに夜のうちに生まれた露が、日の出とともに蒸発して空に昇り、白雲となってシンフォニーを奏でるというのです。それを知り、私は感動をもって草原のそして虚空のいのちを感じました。

 いのちは個々の生命の中だけに宿っているのではないのです。

「こころ」も「いのち」も虚空の広がりと一体となっている。それを感じていただきたいです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年9月3日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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