帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
上野動物園(東京都台東区)のジャイアントパンダ「シンシン」が出産した双子のパンダ=2021年7月6日、東京動物園協会提供 (c)朝日新聞社
上野動物園(東京都台東区)のジャイアントパンダ「シンシン」が出産した双子のパンダ=2021年7月6日、東京動物園協会提供 (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回は「『こころ』と『いのち』」。

【写真】上野動物園のシンシンが出産した双子のパンダ

*  *  *

【虚空】ポイント
(1)『菜根譚』は「人間の心は宇宙そのもの」という
(2)草原に生まれる雲のシンフォニーにいのちを感じる
(3)こころもいのちも虚空の広がりと一体となっている

 私が提唱するホリスティック医学では、人間をからだ(体)、こころ(心)、いのち(生命)からとらえます。このうち、「からだ」はわかりやすいのですが、「こころ」「いのち」とは何かと問われると、一口では答えられないところがありますね。

 まず、こころについてです。中国明代の洪自誠による人生指南の書『菜根譚』に「人間の心は宇宙そのもの」という記述があります。

「人間の心の本体は、それがそのまま宇宙そのものである。一つの喜びの心は、めでたい星やめでたい雲であり、一つの怒りの心は、とどろく雷やはげしく降る雨であり、一つの他をいつくしみ愛する心は、のどかな春風やめぐみの雨であり、一つのきびしい心は、照りつける夏の太陽やきびしい秋の霜である。このような人間の心は、宇宙の現象そのもので、どれを欠くことができようか。(中略)宇宙の根元と心の本体は同じであるということになる」(中村璋八・石川力山=訳注、講談社学術文庫)

 いいですねえ。なんと大きく豊かな心なのでしょうか。ここで言われているのは、こころは、それぞれ一人ひとりの中にあるのではなく、宇宙という外界と一体だということです。

 では、いのちはどうでしょうか。以前、パンダのシンシンが出産する情景をテレビで見たことがあります。あの大きなシンシンのからだから、片手にのるくらいのとても小さい赤ちゃんパンダが生まれました。毛がまったくないつるつるの赤ちゃんが動いているのを見て「ああ、これぞいのち!」と感動しました。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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