「沖縄で戦争に従事した人たちがどんな心理状態に陥るかという話を聞いて、その後に蓬莱さんの脚本を読んだら、それぞれの生き方が、『なるほど』とすっと入ってきた。こんなに『人の生き様』を突きつけられる作品に41歳になって出会えたことにも、何かしらの縁を感じています。それぞれのキャラクターに、人はなぜ生きるのかという根源的なことを考えさせるパワーがある。『今』を生きることすら困難だった時代に、もがいていた人たちの姿を舞台に再現させることで、観客の皆さんにも、生きるエネルギーを伝えられたら」

 ドラマや映画のみならず、CMや音楽でも活躍する桐谷さんだが、初舞台は09年で、「醉いどれ天使」は12年ぶり2作目の舞台作品。舞台経験が少なく、いつからセリフを覚えればいいのかなど、わからないことも多いが、この舞台が俳優としてのターニングポイントになる予感がしている。

「どんな作品に関わるときも、自分がどう変わっていくかにはすごく興味があります。人間って、一日何もしないで部屋にいるだけでも、次の日には気持ちや意識が変わっているでしょ? 僕は、人に対しても自分に対しても、“変化”にものすごい面白さを感じています。特に俳優は、役との出会いだけでなく、スタッフや共演者との出会いがあって、現場でいろんな化学変化を味わえるから」

 もがき苦しんだ20代のことも、「ちゃんと痛みを経験したことが、後の糧になっている」と話す。どこかにぶつかって痛かったら、次にぶつからないためにはどうすればいいかを考える。ぶつかったことやもがいたことも失敗ではなく、次に道を間違わないためのレッスンのようなものだと。

「だから、全部大事なんですよ。何かをしたことも、何もしなかったことも。あの、目をギラギラさせてもがいていた時期も、『自分がいる場所はここじゃない』と思い込んでいただけで、今の僕なら、もっとその瞬間を楽しめたと思う。自分の身の丈にあった、半径何メートルの世界の豊かさや面白さってきっとある。でも、そのささやかな幸せに目を向けるのではなく、大きな流れに影響されて振り回されてしまう時代が今ですよね」

次のページ