「待ってました!」 稀代のグルマン・小泉武夫、元祖石狩鍋とご対面 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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「待ってました!」 稀代のグルマン・小泉武夫、元祖石狩鍋とご対面

石狩川随想(3) “味覚人飛行物体”がゆく

小泉武夫週刊朝日
小泉武夫氏

小泉武夫氏

「金大亭」の石狩鍋。ぶつ切りの鮭の身に、中骨などのアラ、野菜や豆腐を具材にした味噌味(朝日新聞社)

「金大亭」の石狩鍋。ぶつ切りの鮭の身に、中骨などのアラ、野菜や豆腐を具材にした味噌味(朝日新聞社)

 いくら食品加工会社の経営陣の度量が大きいといっても、研究室を無料で提供し、研究の材料費も調達してくれ、その上、日々の研究手当も支給してくれるのであるから、これほど恵まれた私など、極めて稀と言えよう。読者の中には、そんなに厚かましいことをして大丈夫なのかと、心配やらあるいは羨慕やらを抱く輩も居ると思うが、その心配には及ばない。

 というのは、私の専門は発酵学である。人のために役立つ目にも見えない微生物を応用して酒類や味噌、醤油、酢、納豆、漬物、チーズ、ヨーグルト、パンなどのほか、医薬品や化学製品までつくってしまう学問領域なのだ。

 私が世話になっている食品会社は、水産加工業で、主に道産鮭を中心にそれを加工し、販売している北海道有数の企業である。私が親船研究室に就く前には、この会社はすでにさまざまな魚介類の発酵食品を製造し、全国に販売して実績を持っていた。例えば鮭の麹漬け、秋刀魚や鰊の糠漬け、鮭の腎臓を発酵させた「メフン」、鰊の切り込み(塩麹漬け)、イカの塩辛、鮭の飯鮓等で、いずれもヒット商品として人気が高い。

 実は、私が東京の大学で教授として勤めていた時から、すでにこの会社とは共同研究で交流をしていて、そのような魚介類の発酵食品の開発にも協力してきた間柄であった。そんな関係の中、ある有望商品の開発の中途で私は大学の規定により定年退職を迎えたのである。その発酵食品の開発から身を引くことは、学者として大変残念でならなかった。それは、もしそのすばらしい商品の開発に成功すれば、消費者にこれまで味わったことのないような美味しい味を提供できる夢が叶うからである。

 その新発酵調味料とは「鮭醤油」である。今日の醤油は大豆を原料に麹と塩、仕込み水を加えて発酵させるものであるので、原料は全て植物系である。これに対して、動物である鮭の身を使って醸すのであるから、脂肪や血液、内臓などを発酵菌は完全に分解してくれるのかどうか、また魚特有の生臭みはどうなるのか、などなかなか難しい課題があった。だが、昔から秋田県には鰰を発酵させた「塩魚汁」があり、石川県能登地方にはイカの内臓を発酵させた「いしる」がある。さらに外国では、タイには雑魚を発酵させた「ナンプラー」、ベトナムには同じく「ニョクマム」がある。


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