吉田さんは、内部告発に至った理由をこう話す。

「虐待の疑いを施設が黙認したら、職歴の浅い職員は介護の仕事はそんなものかと思い、誰も止められなくなる。人手不足でめったに人を辞めさせられないこともあり、このままでは虐待がずっと続くと思ったんです」

 施設側はこの問題をどう考えているのか。施設の運営会社の人事担当者は本誌の取材に対して3~7月の間に骨折が1件あったことは認めたものの、その他のけがは否定し、こう回答した。

「虐待が行われたという事実や職員の暴力、暴言等は確認できませんでした。擦り傷や小さいけがについては(運営会社に報告が)上がっていない部分があった。大きな骨折だとかは上がってきます。大きなあざなどは、確認できていません」

 骨折の原因については「(利用者には)動きの悪くなった方もいらっしゃいます。自分自身で立とうとするのだけれど、実際には立つことが困難だという方もいらっしゃって」と言い、虐待が原因とは認めなかった。

 今後の展開はどうなるのだろうか。江戸川区介護保険課によれば、一般的に通報を受けたら施設からの資料提供や職員の個人面談で虐待の有無を洗い出す。虐待が認められた場合は施設に改善を求め、その後も随時、改善の進捗の報告を受けるという。介護保険上の事業者指定が取り消されることもあるかについては「警察に立件されるなどかなり悪質ならありうる。江戸川区で前例はない」とのことだった。

 コロナ禍での虐待は、この施設だけの問題ではない。カナダの介護施設では4月、コロナ禍の影響で職員が相次いで退職したため入居者は食事も満足に与えられず放置され、数週間で31人が亡くなった。入居者の家族は面会禁止の状態で、何も知らされていなかった。

 国内でも8月、神奈川県の介護施設で19歳の職員が排泄介助中に97歳の女性入所者を殴ってけがをさせた疑いで逮捕された。肋骨8本を折り、全治3カ月以上の重傷を負わせた。「休憩時間がなく、イライラしていた」と供述しているという。

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