自身も介護施設の職員の経験があり、施設での虐待を研究する淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)は警鐘を鳴らす。

「今年は虐待が増えると思います。職員は高齢者への感染を避けるため、施設内でのコロナ対策に加え私生活も一般人以上に制限があるため、ストレスがたまっている。もともと業界全体が人手不足なのに感染を恐れて離職する人もいて、人も施設もさらに疲弊していく」

 今回のケースの舞台となったグループホームは、2000年に介護保険制度がスタートしたことを受けて急拡大した。だが、施設の特性上、特に注意が必要だという。

「グループホームは他の施設に比べ小規模で職員数も少なく、職員間の相互監視が働きづらい。経験なしで働くこともできるので介護の適性がない人も採用してしまい、問題を起こしても人手不足なので辞めさせられないという悪循環を生んでいる」(結城教授)

 実は、コロナ禍の前から虐待件数は増加している。厚生労働省の調査によると、介護スタッフによる虐待は18年度で621件発生。調査の始まった06年度の54件から11.5倍に増えた。背景には、施設を厳しく取り締まりたくない行政の思惑もあるという。

「行政としては虐待を公表せず、改善要求だけで済ませたいのが本音でしょう。もし施設が潰れたら、利用者の退避先である次の施設を行政が探さなければならず大変。よほどのことがないと指定取り消しにはなりません。国も施設を増やして、介護人材が不足している手前、施設側に厳しくできないのです」(同)

 虐待に遭う可能性を少しでも減らすためには、施設にまめに連絡し、家族の存在をアピールすることで「監視していますよ」というメッセージを送ることが有効だという。

「ブラックボックス」の中で進行している恐ろしい現実。今回の話は、氷山の一角なのかもしれない。(井上有紀子)

週刊朝日  2020年9月4日号より抜粋