小堀:多田先生というと、厚生労働省が導入したリハビリ期間に期限を設ける制度に反対されて、働きかけた活動が印象に残っています。いかにしてその人らしい死を迎えてもらえるか社会としても考える、ということでしょうね。私の教訓になっています。

 死に方に関してもう一つ言えば、在宅死は理想的な死なのか、という問題があります。厚生労働省もゴールドプランを出して、高齢者の在宅療養生活を支えるとしましたが、いまだに在宅死率は変わりません。

 ある雑誌が2011年に、有名人がどこで亡くなったかという調査をしている。美空ひばりは順天堂医院、石原裕次郎が慶応大学病院とあって、自宅で亡くなったのは作家の井上ひさしだけでした。その後、永六輔らが自宅で亡くなって時代は変わったかのようにも見えますが、在宅死の受け止め方は変わっていないんです。

 ただ、コロナ騒動がきっかけなのか、つい最近「朝日新聞」が1面トップで、自宅で亡くなった方を紹介していました。コロナ騒動で面会ができなくなったから、病院では家族に手を握られて死ねないから、と在宅を選ぶんです。その方は前の日に家族と楽しい時を過ごして亡くなりました。

 そういう発想はコロナ時代ゆえの発想だと思うんです。コロナ騒動をきっかけにして在宅死を考える人が増えるかもしれません。いずれにせよ、それぞれに適した死を考える一つの契機になったとは思っています。

養老:いい方向に変わる面もあり、悪い方向に変わることもあり、でしょうね。僕も死に方は人さまざまでいい、と思います。

(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2020年8月14日‐21日合併号より抜粋