高齢化社会日本で、中小企業の後継者問題が深刻さを増している。6割近い経営者が、「後継者は決まっていない」と答えるほどだ。そこで注目したいのが、国が各都道府県に設置する「事業引継ぎ支援センター」。全国ネットワークで後継者候補を探してくれるのだ。
【写真】支援センターを活用し後継者問題から守られた老舗の銘菓がこちら
中小企業庁による2015年の調査では、4分の1を超す中小企業が、経営課題としてどのように事業を継承していくのかを挙げている。
一方で1995年に47歳だった中小企業経営者の平均年齢は、2018年には69歳まで上昇。重要な課題であるはずなのに、世代交代は進んでいない状況が窺(うかが)える。こうした状態が続くと、25年には70歳以上の中小企業経営者の約半数、127万人が後継者未定となり、650万人の雇用が失われる可能性があると、経済産業省は推計している。
「後継者が決まらないという問題は、中小企業の経営者にとって人に相談しにくい事柄なのです」と、中小企業基盤整備機構の中小企業事業引継ぎ支援全国本部プロジェクトマネジャー、宇野俊英氏は説明する。
後継者がはっきりしないことは、事業の継続性への疑念につながる。金融機関や取引先にしてみれば、「このまま融資や取引を継続してよいものか」と考えてしまうことになる。それゆえ、経営者としてはおいそれと人に相談することもできず、「気にはなるが、具体的には何も進まない」という状態に陥ってしまいやすいのだ。
この、相談しにくい後継ぎ問題の“駆け込み寺”として設置されたのが、事業引継ぎ支援センターなのだ。では次に、同センターを活用した事業引継ぎの具体例を紹介しよう。
福井市の和菓子メーカー、恵比須堂(引継ぎ後はえびす堂に改称)は、1917(大正6)年創業の老舗。福井のお土産として知られる「けんけら」や「羽二重餅」を、県内の土産物店や和菓子屋に納めている。
前社長の中道直氏(70)は、学生時代、先代の社長が東京での下宿の先輩だった縁で、26歳のときに恵比須堂へ転職。33歳で社長を引き継いだ。