林:梶原一騎さんは亡くなりましたけど、すごく豪快な方だったみたいですね。

ちば:体が大きくて、180センチぐらいあって、一見コワそうなんだけど、実はテレ屋でガキ大将がそのまま大きくなったような感じで、私はとても気持ちがわかりました。

林:先生の作品を語れば、昭和、平成が語れますよね。先生がご病気になったとき、うちに帰ったら、うちの中がガラガラで、奥さまが「スタッフのみんなに退職金を払っといたよ」と言ったという話、あれは本当なんですか。

ちば:そうなの。網膜剥離の手術をしたときだったか、心臓の手術をしたときだったか、2~3週間入院して仕事ができなくなっちゃったことがあるんです。帰ってきたら、机が八つぐらい粗大ごみとして積んであるんですよ。「どうしたの?」と聞いたら、「アシスタントたち、退職金払ってみんな解散させたよう」って言うんです。

林:奥さまの一存で?

ちば:ええ。「俺に相談もしないで、なんてことをするんだ!」と言って怒ったんです。で、あわてて仕事場に上がっていったら、私の机が一つだけあって、あとは空っぽなの。

林:それは何年前ですか。

ちば:もう25、26年前でしょう。ただ、最初は怒りましたけど、しばらくしたらホッとしましたね。8人もアシスタントがいて、お給料を払わなくちゃいけないし、心臓や目が悪かろうがそれだけの仕事をしなくちゃならない。みんな納得して独立したと聞いて、ちょっとホッとしました。それで忙しい週刊誌の連載はやめたんです。ときどき短編とか、全集を出すときにちょっと直したりするだけで。

林:『ひねもすのたり日記』には、「奥ちゃん」というアシスタントが出てきますね。

ちば:元アシスタントね。

林:今は?

ちば:私の奥さんです。

林:えっ、奥さま? あの「奥ちゃん」が奥さまとは知りませんでした(笑)。漫画だとすごく若い人だし。

ちば:若く描かないと怒りますからね(笑)。

林:このあと、奥さまとのなれそめとかも描かなきゃいけないわけですよね。

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