ちば:「奥ちゃん」とのことは描けないなあ(笑)。

林:でも、それまでのことをこと細かく描いてらっしゃるんだから、奥さまとのことも描かないと読者は納得しないんじゃないですか。伝記なんですから。

ちば:私の頭の中にまだ母親がいて、検閲されるというのがあって(笑)。今は「奥ちゃん」が検閲してますけどね。九州女なんですよ。

林:「小倉生まれで玄海育ち/口も荒いが気も荒い」とかいう歌がありますけど。

ちば ほんとに強いんです。酒はグイグイ飲むし、酔うと目がすわってきて、少し巻き舌になって、「てめえら、そこになおれ!」なんて言うんですよ。そうすると私や息子たちがあわてて「あっ、きょうはおしまい。お開きにしましょう」って(笑)。

林:アハハハ。先生も飲まれるんですか?

ちば:お酒は、寝るときに「奥ちゃん」につき合って少し飲むだけです。心臓の手術をしたりして、お酒は飲めなくなっちゃったの。あの味と香りと雰囲気が好きだから、ちょっとだけは飲むんですけど、グビグビは飲めなくなっちゃった。

林:そうなんですか。

ちば:だけど漫画は今でも現役で、どうしてもあの4ページ(連載中の『ひねもすのたり日記』)は描かなくちゃならない。たった4ページなんですけど、時間がかかるんですよ。

林:しかし売れてる漫画家の方って、おそらく小説家が想像もつかないぐらいの収入だと思うんです。赤塚不二夫さんは乗りもしないヨットを二つ買ったり、メチャクチャお金を使ったそうですけど、先生はそういうことなかったですか。

ちば:私はコワい母親にずっと管理されて、お給料をもらってたから。

林:えっ、お給料制だったんですか。今は「奥ちゃん」からお給料を?

ちば:小遣いと交通費を少々(笑)。

林:まあ……! そうなんですか。でも、漫画家の方の才能ってすごいですね。大きなストーリーづくりがあって、心を打つようなセリフ、一人ひとりのキャラクターづくりとか、単に絵がうまければいいというものじゃないですよね。私はいまだに手書きで、字が下手でも読んでくれますけど、漫画家の方は絵で表現しなきゃいけないから、三重にも四重にも才能が必要な気がします。

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